足関節果部骨折後のアライメント変化とその要因
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概要
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【はじめに】 足関節果部骨折は交通事故やスポーツ中の外傷、また歩行や走行中の捻挫、転倒により発生する比較的頻度の高い骨折である。多くの場合手術を必要とするが、その後の治療経過で有痛性の二次的な足部ならびに多関節症変化を呈することが多く、歩行やADLにも大きく影響する。従って、後療法としての理学療法では、下肢のアライメント変化に着目することは重要である。 一般に足部アーチの低下は下肢のアライメント変化をもたらし、歩行時や荷重時の疼痛ならびに種々の関節変形を誘発する原因とされる。内側縦アーチは足部アーチの指標の一つで、外傷後の治療経過において臨床上重要である。Basmajianらは内側縦アーチの支持には筋力ではなく、靭帯や足底筋膜ならびに骨構造が最も重要であると指摘している。一方で、内側縦アーチには筋力が主な役割を果たすという報告や、足部柔軟性と筋力が関係するという報告もあり、足部の静的および動的機能に関連する因子は明確ではない。またこれらは健常者を対象とした報告であり、外傷後のアライメント変化について検討した報告は我々が渉猟し得た限りでは見当たらない。 そこで今回、足関節果部骨折後の内側縦アーチ変化とそれに影響を与える因子を抽出し、検討を行ったので報告する。【方法】 2010年5月~2012 年10月で当院にて観血的固定術を行った足関節果部骨折患者で、入院から外来治療終了まで経過観察が可能であった25名(男性14名、女性11名、年齢56.0±16.6歳)を対象とした。患者内訳は、免荷期間47.5±12.4日、Lauge-Hansen(以下L-H)分類ではsupination(以下S)型13例(SA型 3例、SER型 10例)、pronation(以下P)型12例(PA型 9例、PER型3例)であった。内側縦アーチの評価はアーチ高率を採用した。測定方法は、術後全荷重開始時の健側アーチ高率に対する患側アーチ高率の比率を算出し、これを術後の内側縦アーチ変化とした。また、同時期に内側縦アーチの関連項目として、足部柔軟性および足関節周囲筋筋力の測定を行った。足部柔軟性は村田らの方法を用いて測定した。足関節周囲筋の筋力は、足部外転筋力、内転筋力、また石坂らの方法を用い母趾圧迫力を測定した。測定にはアニマ社製HDDμTasMF-01 を用いた。また、体重比 (Nm/kg) および健側筋力に対する患側筋力の比率を算出し、これを骨折後の足関節周囲筋筋力の変化として捉えた。対象を内側縦アーチ変化の中央値でアーチ低下群、アーチ保持群の2群に分類し、年齢、性別、体重、免荷期間、L-H分類、足部柔軟性ならびに足関節周囲筋筋力について単変量解析を行ない、差を認めた項目を独立変数、内側縦アーチ変化を従属変数とし、多変量解析を行なった。統計はt検定、χ二乗検定ならびにステップワイズ法によるロジスティック回帰分析を用い、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 対象者には本研究の趣旨を説明し、研究に対する参加と評価測定に関する同意を得た。【結果】 アーチ低下群でアーチ保持群に比べて足部柔軟性は有意に低下していた(P =0.012)。また、アーチ低下群で足部内転筋力が低く(P = 0.095)、S型に比べてP型が多く(P =0.073)、年齢が高い(P =0.066)傾向にあった。ロジスティック回帰分析の結果、果部骨折後のアライメント変化に最も影響を与える因子として足部柔軟性が抽出された(OR=2.99、95%CI=1.45-7.78、P = 0.025)。【考察】 本研究より、果部骨折後の内側縦アーチ低下には主に足部柔軟性の低下が関連することが示された。村田らは足部柔軟性を足部の総合的屈曲運動とし筋張力の発揮に大きく影響するとしている。アーチ低下群で足部内転筋が低値を示したことから、足部柔軟性が筋力に影響した可能性がある。健常者を対象とした研究では、筋出力の増加が足部のアーチを挙上するとしているが、今回のように足部柔軟性が低下している例では筋出力自体が充分に発揮できず、内側縦アーチが低下したと考えられる。足部柔軟性の低下には、重症度や免荷期間による不動、および加齢による影響なども考えられるが、本研究ではこれらの因子が内側縦アーチの低下に直接影響することはなかった。今回の研究は静的評価であるが、足部柔軟性はwindlass機構など動的機能にも影響することから、今後は動的評価も含め外傷後の足部柔軟性の維持改善に向けた介入策を構築する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 今回の評価が全荷重開始時であることから、内側縦アーチの低下を防ぐためには荷重前から予防的方策を講じる必要がある。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
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