痴呆症患者の総義歯治療の一症例:その問題点を探って
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概要
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本邦では, 高齢社会の到来に伴って痴呆症患者の増加が予測されており, そのため痴呆症患者に対する歯科治療の指針が行動障害の観点よりいくつか作成されてきている。しかし, 総義歯治療が必要な痴呆症患者への対応についてはまだまだ検討するべき課題が多く, 総義歯治療に対する明確な指針はいまだに確立されていない。そのため, 臨床の場では色々な困難に遭遇しながら試行錯誤を繰り返しているのが現状である。ところで, 今回われわれは, 痴呆症患者の総義歯治療に対する臨床的指針を確立するうえで興味深い一症例を経験し, その結果, 以下のことを明らかにした。<BR>1. 義歯性疼痛の原因で上下顎総義歯の装着を拒んでいた痴呆症患者に, 維持・安定の優れた上顎総義歯を装着させたところ, 上顎総義歯には順応させることができた。その結果, 咀嚼機能と嚥下機能の改善が認められた。<BR>2. しかし, 下顎総義歯については垂直的ならびに水平的下顎位の決定に非常に苦慮し, 下顎総義歯の義歯性疼痛を完全に解消することはできなかった。そのため, 下顎総義歯に順応させることはできなかった。すなわち, 痴呆症患者に義歯を順応させるためには無痛的な義歯作製が不可欠であり, そのためには痴呆症患者の顎間関係の決定と記録が適正かつ確実に行える方法の開発が急務であると考えられた。<BR>3. 今後, 痴呆症患者に対する歯科治療の指針の精度を高めるためには, 行動障害の観点だけでなく補綴学的見地からの十分な検討も必要であると考えられた。
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一般社団法人 日本老年歯科医学会 | 論文
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