島根県益田市の馬の谷−城山鉱山の花崗岩ペグマタイトについて
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
馬の谷−城山鉱山のペグマタイト鉱床(長石および石英) は,本邦最大の生産量を有し,約97 Ma のチタン鉄鉱系の真砂花崗岩中に胚胎する.鉱体は,母岩である黒雲母花崗岩から内側に向かってその距離に応じて,次のように分帯される:(1) 周縁帯,(2) 漸移帯,(3) 中央帯.肉眼での結晶粒径は,この順番で増大し,その結果,巨大に成長した石英の結晶は中央帯にのみみられる.馬の谷−城山鉱山の鉱石は,単純な鉱物組合わせで特徴づけられ,石英とカリ長石が卓越し,微量の白雲母と斜長石を伴う.以下に述べる一連の証拠から,本鉱床が典型的な花崗岩ペグマタイトであり,真砂花崗岩をもたらした花崗岩マグマの末期の結晶・分化作用の産物であると結論される:(1) 真砂花崗岩と鉱床との密接な時間的・空間的随伴関係(約95 ~90 Ma),(2) 鉱体内で,カリ長石と石英との"文象構造"の存在,(3)"鉱石石英"および"鉱石カリ長石"中にメルト・インクルージョンの存在,(4)"鉱石カリ長石"中にパーサイト(その組成から約500-300 ℃での離溶を示唆)の存在,⑸"鉱石石英"の酸素同位体組成が,周りの黒雲母花崗岩のそれを受け継いでいること.二種類のメルト・インクルージョン(一つはインクルージョンの全容量の約 80 %以上をいくつかの娘鉱物が占めるもの(±気泡)と,もう一つはその全容量の30−50 % を占める大きな気泡をもつもの) が共存することは,低圧条件で,シリカに富むメルトと流体との間の混和を示すものかもしれない.石英の酸素同位体組成(δ18O)は,関連する火成岩中であれ,"鉱石石英"であれ,ほとんど同じ (約+12 ‰) である.一方,火成岩中のカリ長石の酸素同位体組成は約+11 ‰であるのに対して,"鉱石カリ長石"は約+7−+8 ‰とかなり"同位体的に軽く"なっている.この事実は,石英とカリ長石の間の酸素の交換反応速度の違いによるものと考えられる.多量の気−液2相包有物が,"鉱石石英","鉱石カリ長石"および関連火成岩中に観察される. この事実は,熱水流体−恐らくは真砂花崗岩マグマから放出されたマグマ流体と循環天水の混合物とみられる−が,主にペグマタイト形成の末期に,本マグマ−熱水系に間隙を通して侵入し,鉱体の中を循環したことを強く示唆する."鉱石石英"中にトラップされた2 相包有物の均一化温度(圧力補正はされていない)は,以下の通りである:(1) 250−400 ℃(周縁帯),(2) 230−370 ℃(漸移帯),(3) 240−340 ℃(中央帯).また,末期の熱水流体の循環は,本マグマ−熱水系内部では,石英のδ18O 値に影響を与える程には,長期間継続はしなかったと,考えられる.
著者
-
石原 舜三
Geological Survey of Japan
-
西戸 裕嗣
Research Institute of Natural Sciences, Okayama University of Science
-
星野 健一
Department of Earth and Planetary Sciences, Graduate School of Science, Hiroshima University
-
渡辺 洵
Department of Earth and Planetary Sciences, Graduate School of Science, Hiroshima University
-
西戸 裕嗣
Research Institute Of Natural Sciences Okayama University Of Science
-
渡辺 洵
Department Of Earth And Planetary Sciences Faculty Of Science Hiroshima University
-
木原 昌二
Department Of Earth And Planetary Sciences Graduate School Of Science Hiroshima University
-
松葉谷 治
Research Institute of Materials and Resources, Faculty of Engineering and Resource Science, Akita University
-
石原 舜三
Geological Survey of Japan, AIST
-
山口 和樹
Department of Earth and Planetary Sciences, Graduate School of Science, Hiroshima University
関連論文
- 韓国, 堤川岩体, 非島弧環境下で生成したMo鉱化関連アダカイト質花崗岩類
- 東北日本,北上山地,宮古岩体の磁鉄鉱系花崗岩類における壁岩同化現象
- Intrusion and differentiation of the Tsubashiki diorite stock in the western part of Yamaguchi Prefecture, S.W.Japan-Formation of the stock through fractional crystallization and filter-pressing under a hydrous condition-
- 西南日本の分化チタン鉄鉱系花崗岩類:REE-Sn-W鉱化マグマの起源
- 西南日本, 島根県, 馬谷-城山鉱山における花崗岩質マグマ活動および関連するペグマタイト形成のK-Ar年代ならびにその冷却史に関する意義
- 西南日本内帯の主要なモリブデン鉱床およびタングステン鉱床に関係する花崗岩質岩類のモード鉱物と化学成分
- 鉱化作用における鉱液の沸騰の効果 : 数値解析による検討
- 山形県, 大峠カオリン-パイロフィライト鉱床産黄錫鉱ならびにその成因的意義
- オーストラリア, クイーンズランド州, Mount Leyshon金鉱床の地球化学的特徴
- 北上山地の白亜紀前期の金-石英脈および銅-鉄スカルン鉱床に関係する花崗岩タイプ
- 日本の花崗岩類における帯磁率の横断面変化
- マグマ混交/混合とマグマ結晶分化作用 : 白川モリブデン鉱化花崗岩類の成因
- 日本の秋吉石灰岩の地球化学的特徴と潜頭性スカルン型鉱床探査への可能性
- 韓国, 錦城モリブデン鉱床の鉱石硫黄の炭酸塩岩起源の可能性
- ペルーの中・新生代花崗岩バソリスにおける花崗岩系列と帯磁率変化
- 西南日本, 三石ろう石鉱床群に対するカルデラ生成説の提案
- 兵庫県平木鉱山における珪長質火山活動のK-Ar年代, その火山層序およびカオリン鉱化作用についての意義
- 兵庫県, 平木鉱山における熱水性カオリン鉱床の地質学的及び地球化学的研究
- 日本の金属鉱床のインジウム資源量評価と若干の成因的考察
- 溶液の混合による鉱床形成過程の予察的解析--MIX99の適用
- 海水起源,続成起源及び熱水起源の海底マンガン鉱床にみられる内部成長組織の比較
- 華南の燕山期マグマ性熱水鉱床の硫黄同位体比変化
- 岩手火山における記載岩石学的・岩石化学的研究
- 韓国のカンブロ-オルドヴィス紀炭酸塩岩の硫黄含有量と同位対比:中生代マグマ熱水性鉱床の硫黄起源の可能性
- 韓国の花崗岩類と帯磁率
- 中国北東部, ウーシャンポーフィリー銅モリブデン鉱床の貫入と鉱化年代 : 単結晶ジルコンU-Pb年代, 全岩アイソクロンRb-Sr年代, そしてK-Ar年代からの証拠
- 環太平洋地域顕生代花崗岩類の花崗岩系列と鉱化作用
- 島根県益田市の馬の谷−城山鉱山の花崗岩ペグマタイトについて