分娩後に甲状腺クリーゼを発症し,バセドウ病と診断された1例
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
甲状腺クリーゼは極めてまれな疾患であるが重篤な病態で,産科領域においては分娩を契機に発症することが多い.今回,われわれはバセドウ病未診断の妊婦が分娩後に甲状腺クリーゼを発症し救急搬送され,集中治療室管理で救命し得た症例を経験したので報告する.患者は28歳,近医で正常妊娠として妊婦健診を受けていた.妊娠中より頻脈や易疲労感の訴えはあったがバセドウ病は疑われず精査はされなかった.ところが妊娠35週に2060g(-1.0SD)の児をApgar score2/3点(1分値/5分値)で早産したため,児は新生児搬送された.母体は児娩出1時間後から呼吸障害,頻脈,高血圧が出現したため,妊娠高血圧症候群および肺塞栓症の疑いで当院救急搬送となった.来院時,意識障害,頻脈,高血圧,呼吸障害,発汗,手指振戦がみられ頸部も著明に腫脹していた.超音波検査では甲状腺は豊富な血流を伴って腫大しており,心臓は収縮能が著明に低下し心不全の状態であった.また胸部X線では肺水腫を認めた.以上より,甲状腺クリーゼによる重症心不全および心原性肺水腫と診断し,集中治療室での呼吸・循環管理の下,抗甲状腺薬,無機ヨード,副腎皮質ステロイドを投与したところ翌日より呼吸・循環器系の改善を認め,その後順調に回復したため産褥14日目に退院となった.甲状腺クリーゼは発症率は低いものの発症した場合の致死率は母児ともに20~30%と極めて重篤な病態である.本症例から妊婦健診における甲状腺疾患の有無を意識することが,クリーゼといった重篤な合併症の発症回避に必要であると考えられた.〔産婦の進歩65(2):146-152,2013(平成25年5月)〕
著者
-
福田 綾
大阪厚生年金病院
-
小川 晴幾
大阪厚生年金病院
-
小川 晴幾
大阪厚生年金病院産婦人科
-
長田 奈津子
大阪厚生年金病院
-
金尾 世里加
大阪厚生年金病院
-
西山 理恵
大阪厚生年金病院
-
丸本 恵理子
大阪厚生年金病院
-
岸本 聡子
大阪厚生年金病院
-
西山 理恵
大阪厚生年金病院産婦人科
-
長田 奈津子
大阪厚生年金病院産婦人科
-
岸本 聡子
大阪厚生年金病院産婦人科
関連論文
- 産科オープンシステム・セミオープンシステムの現状と今後の課題 (特集 これからの産科医療を考える--その現状とくに問題点からみた将来像)
- (6)都市型2次病院での就業環境改善への取り組み(第60回学術講演会シンポジウム4「産婦人科医不足の解消を目指して」)
- P3-68 当院における助産所紹介妊婦の予後に関する検討(Group74 妊婦高血圧症候群2,一般演題,第60回日本産科婦人科学会学術講演会)
- (5) 都市型2次病院での就業環境改善への取り組み(産婦人科医不足の解消を目指して,シンポジウム4,第60回日本産科婦人科学会学術講演会)
- 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール 低単位hCGが長期間持続したのち自然寛解した1例
- パートナーシップマネジメント
- P2-34-5 分娩を機に甲状腺クリーゼを発症し,Basedow病と診断された一例(Group90 合併症妊娠(症例)5,一般演題,第64回日本産科婦人科学会学術講演会)
- 分娩後に甲状腺クリーゼを発症し,バセドウ病と診断された1例
- P1-38-4 妊娠関連乳癌について(Group 38 合併症妊娠(症例)1,一般演題,公益社団法人日本産科婦人科学会第65回学術講演会)
- P1-23-9 旧「茶のしずく石鹸」を使用し加水分解小麦により感作され,妊娠中にアナフィラキシーを発症した症例(Group23 合併症妊娠1,一般演題,公益社団法人日本産科婦人科学会第66回学術講演会)