EU社会政策とオランダ福祉国家の変容
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概要
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本稿の目的は,EUレベルでの社会政策が,これまで独自の文化や伝統にもとついて政策を展開してきたヨーロッパの福祉国家にどのような影響を与えているのかを,オランダの事例を通して検討することである.アムステルダム条約以降,とくに2000年に打ち出されたリスボン戦略をひとつの転換点として,EUレベルで,経済政策,社会政策,雇用政策の相互の連携が強調されるようになった.社会政策に焦点をあててみると,「貧困」や「社会的排除」を根絶するための具体的な手段として,雇用と労働市場政策を通した社会的統合がめざされている.北欧型と大陸型の要素を混合して発展をみたオランダの福祉国家においても,最近では,このEUリスボン戦略に歩調をあわせる方向で,(1)多様化する個人のライフコースにあわせた休業・所得補償制度の創設や,(2) 民営化等を通じた既存の社会保険制度の見直し,また,(3) ワークフェアを通じた社会的統合策などが進められている.しかしながら,これらの改革が,既存の制度との問で矛盾を生み出すことや,行き過ぎたワークフェア政策が,かえってマイナスの結果をもたらしかねないことなどの新たな問題も指摘されており,最近の就労と「個人化」を前提とした社会保障改革は容易には進んでいない.EU社会政策の枠組みと,自国の伝統との間でどのように妥協点を見出していくのか,今後のさらなる動向が注目される.
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