米のアミノ酸含量に関する研究(第2報) : 塩酸加水分解法によるアミノ酸測定に及ぼす炭水化物共存の影響
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
炭水化物を多量に混合した試料のアミノ酸分析について系統的に研究した例はあまり報告されていない. Rackis(2)らは大豆の各部分および抽出タンパク質のアミノ酸組成を報告した際に,抽出タンパク質の窒素の回収率は98%になったが,タンパク質含量が52.0%(したがってタンパク質に対しほぼ同量の夾雑物を含むと考えられる)の抽出残渣とタンパク質含量が9.56%の大豆皮部(したがってタンパク質に対してほぼ10倍量の夾雑物を含むと考えられる)の窒素回収率はそれぞれ90%と85%にしかならないことを報告した.著者らの分析結果はデンプン混合試料24時間加水分解の場合,窒素回収率は84.0%でRackisらの大豆皮部のアミノ酸分析の結果とほぼ同じ程度の回収率であった. Lugg(3)は炭水化物が存在するとチロシンの破壊が促進されること,またTristram(4)はアルギニンが破壊されることを報告しているが,著者らの測定結果でもこの2つのアミノ酸は損失のいちじるしいアミノ酸であった. Wilcoxら(5)はαキモトリプシノーゲンの場合に,またJungeら(6)はαアミラーゼのアミノ酸分析の場合に,セリン,スレオニンは加水分解時間の増加とともに直線的にこわれていくことを報告した,またMahowaldら(7)はミオキナーゼの場合, Noltmannら(8)はATPトランスホスホリラーゼの分析の場合に,直線的ではなく一次の分解反応と考えられることを報告した.著者らの測定結果では,タンパク質試料の場合,セリンはほぼ直線的な減少を示したが,スレオニンの場合ほいずれでもなく上に凸の曲線を示した.これは著者らが採用した最短の加水分解時間6時間が短かすぎて,加水分解不完全のために低すぎる測定値を与えているためと考えられる.Kasselら(9)はキモトリプシノーゲンの分析の際に7, 11, 16, 30, 70時間の加水分解を行なったが, 11時間以後測定値が安定することを報告している.デンプン混合試料の場合はデンプンによるタンパク質加水分解の遅延がみられるため6時間では加水分解がさらに不完全になるものと考えられる. Wilcoxらはメチオニンの測定値は不安定に変動することを述べているが,一方, Noltmannらは20時間から140時間の塩酸加水分解で充分安定した測定値が得られることを報告している.著者らの測定結果はタンパク質試料そのままの場合も,炭水化物混合試料の場合もいちじるしい損失が認められた.これは加水分解用ガラス管内部を嫌気的条件にしていないために,酸化されて損失が起こるものと考えられるが,この点は今後の検討が必要である. 白米グルテリンに20倍量のデンプン,ショ糖,ブドウ糖,果糖を混合した試料を塩酸で加水分解して,トリプトファン,シスチン以外の16種のアミノ酸を測定した.その結果を炭水化物を混合しない,白米グルテリンそのままで塩酸加水分解した場合の測定値と比較検討した.その結果次のような事実が明らかとなった. (1) 炭水化物混合試料は各アミノ酸とも低い測定値を与える. (2) 各アミノ酸の測定値の低下は糖混合試料の方がデンプン混合試料より大きい. (3) 特に測定値の低下のいちじるしいアミノ酸はチロシン,メチオニン,セリン,アルギニンである. (4) 共存する多量のデンプンは,加水分解の初期にタンパク質の加水分解をおくらせる.また加水分解時間が長くなるとアミノ酸の測定値の低下を促進する.したがって加水分解時間は24時間が適当であると考えられるが,この場合でも各アミノ酸の測定値はかなり低くなり,窒素の回収率はデンプン混合試料の場合84.0%,糖混合試料の場合75%程度であった.
- 社団法人 日本農芸化学会の論文
著者
関連論文
- 米のアミノ酸含量に関する研究(第2報) : 塩酸加水分解法によるアミノ酸測定に及ぼす炭水化物共存の影響
- 米のアミノ酸含量に関する研究(第3報) : 米粒各部のアミノ酸含量
- 米のアミノ酸含量に関する研究(第1報) : ベックマンアミノ酸分析計による白米グルテリンのアミノ酸分析