農村婦人の栄養調査成績およびこれに基づく成人女子鉄所要量算定についての提案
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概要
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1967年から, 熊本県下の貧血検診を75地区に実施した。貧血頻度は, 1967∼1968年40.7%であったが, 1976∼1977年には16.1%に減少した。このうちから, 詳細に検討するため, 1969年熊本県下全域にわたる11地区1001名の農村婦人の栄養調査および血液学的検査を行い, うち4地区について引続き栄養指導を行いつつ観察を続け, 1976年再調査を行った。その成績に基づき農村婦人の貧血と栄養の関係を疫学的に考察すると共に, 厚生省の日本人栄養所要量のうち, 鉄の所要量が妥当か否かを検討し, より適切な指針の提案を試みた。1. 1969年の貧血者は, 11地区1001名中36.3%, うち4地区288名中33.0%であった。1976年には4地区の貧血者は, 18.5%に減少した。貧血の血液学的特徴は, 1969年には鉄欠乏の性格の強いものであったが, 1976年にはそれは薄らいでいた。2. 1969年の調査において, 貧血群に高度に有意に低い栄養素は, 動物性食品鉄と動物性たん白質であった。総鉄量が貧血との有意な相関を示さなかったことは注目に値する。必須アミノ酸は, すべて貧血群において低いとの成績が得られたが, とくにリジン, メチオニン+シスチン, スレオニンについて貧血との密接な相関が認められた。3. 1976年の成績を1969年と比較すると, 殆んどすべての栄養素が有意に増加, とくに動物性食品鉄, 総鉄, 動物性たん白質等について著しかった。必須アミノ酸についてはリジンが高度に有意に増加した。食品別に見れば, 高度有意に増加したものは, 獣鳥肉, 高度有意に減少したものは, 米を主とする穀類であった。4. 農村婦人の貧血は栄養, 労働, 環境など多くの条件が絡み合って引き起こされるものであるが, 栄養については, 動物性蛋白および動物性食品鉄の不足が最も重要な役割を演じているものと考えられる。5. 厚生省の日本人栄養所要量には, 動物性蛋白質24g, 総鉄量12mg以上と策定されている。1969年の調査例については, この条件を充たしながらも貧血となっているもの33.9%であり, この条件を充たしていない者における貧血頻度と同程度であった。また総鉄量と貧血頻度との相関は認められなかった。これは総鉄量をもって鉄所要量を規定することが妥当でないことを示すものである。6. そこで著者は動物性食品鉄をもって, 鉄所要量を規定することを試みた。動物性食品鉄の摂取量が増加すれば, 貧血頻度は次第に低下するものであるが, すべての条件が比較的に向上している1976年の調査例では, 動物性食品鉄5mg以上で一定の貧血頻度約12%となっている。従って, この動物性食品鉄が, 必要最少限の量と考えられるが, 食糧事情, 経済問題, 栄養素によっては過剰になるおそれのあることなどを考慮して, 栄養指導の指針としては4mg以上とすることを提案した。さらにそれを満たすような食品構成の具体例を掲げた。