音響刺激による家兎蝸牛損傷の実験的研究
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概要
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音響性外傷による聴器の病変には, 強大音の音響エネルギーによつて内耳が物理的に破壊される場合と, 内耳を急激に破壊しない様な音響に聴器が長期間曝露され, いつとはなしに難聴が起ってくる場合のいわゆる慢性の聴器傷害があると考えられている.<BR>著者は急激に内耳破壊をきたさない程度の一定音圧の刺激音に聴器が長期間さらされた場合, 内耳有毛細胞はいかなる反応を示しながら推移するかを知ろうとした. その際長期間に渉る内耳機能の推移を正円窓永久電極装着家兎によるcochlear microphonics (以下CMと略す) を指標として把握すると共に, CM変化のある時期における内耳有毛細胞の変化を知るためにsurface preparation techniqueによる形態学的観察を行なった. 得られた結果は次の如くである.<BR>(i) 家兎にとって, 自由音場で頭頂端子上での100dbが徐々に内耳傷害を起す音圧と推察された.<BR>(ii) 2000Hz. 100dbの純音を1日2時間宛連日繰返し音刺激した場合, CMの経日的変化は1〜2日の音刺激による第1次の低下と1次的回復後の第2次の低下という2つの谷をもつ経過曲線を示すことが知られた, <BR>(iii) 音響による蝸牛外有毛細胞傷害はその形態学的変化によりa) いわゆるcollapsed cell b) 膨化細胞 c) 網状膜構造の消失の3つに大別した.<BR>(iv) CMの第1次の低下後24時間おいて観察したコルチ器は, 第2回転前半部に膨化した外有毛細胞を多数認め, これを1週間放置し電位が急激に回復したものでは, これら膨化細胞は大部分正常に復し, 一部は更に傷害が進んでいた. 第2次の低下後24時間おいて観察したコルチ器は第1回転後半部から第2回転後半部にかけて外有毛細胞のcollapsed cellを多数認め, 傷害部位は第2回転前半部を中心に下方回転に進展する傾向のあることが知られた. これを1週間放置したものでは電位は殆んど回復せず, 又組織学的には傷害の部位及びそのピークは個体により相違が認められ, 音刺激中止後の傷害細胞の回復或は増悪の仕方に個体差があることが想像され, これは音響曝露期間が長期に渉る程著明であろうと推察した.<BR>(v) 音刺激による外有毛細胞の3列相互間には傷害差は見出せなかった.<BR>(vi) 2000Hz, 100db, 1日2時間宛反復音刺激した結果, 外有毛細胞は初期には胞体の膨化という可逆性の形態学的変化から, 音刺激の継続によりついにはcollapsed cellという不可逆性の形態学的変化に移行していくことをCM変化の推移より推論した.<BR>(vii) 以上音響性外傷による内耳傷害をCMを指標として経日的に追求すると共に, 2つの時点で内耳有毛細胞の傷害を形態学的に観察した結果, 最初の電位低下における傷害細胞と一旦電位が回復し, 再び低下した時点での傷害像には著るしい相違があることを見出した.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文