縮合多環系建染染料類及びその誘導体の硫酸呈色反応に関する研究 (第1報) : アントラキノン, ビオラントロン等多環芳香族キノン類の, カルボニル基の硫酸溶液中に於て有する塩基度に対する考察
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概要
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縮合多環系建染々料類及びその誘導体は濃硫酸溶液中において黄色より緑色迄美麗にして深い呈色反応を示し, 其の有する吸収スペクトルの山は, 有機溶剤中におけるものよりも, いずれも長波長側に偏位し, その形状も全く異る。この反応は硫酸中のH+とこれら縮合多環系建染々料類及びその誘導体の有するカルボニル基 (>C=o) との間に (>C=OH) <SUP>+</SUP>, (>C-o-H) <SUP>+</SUP>の混成共鳴 (hybrid resoance) の形を有する, 附加化合物が生成し, 観測される吸収も其の附加化合物の有する吸収と解釈される。著者はこの反応をBronstedの意味における広義の酸, 塩基反応と見て硫酸の酸度を変化し, その酸度において生ずる附加化合物の量を, Beckman DU型分光器を使用して, 新たに生じた吸収の山の吸光係数を測定する事により, イオン化された塩基の解離恒数を測定しこれをpKで表示した。これら化合物群のpKで表示された塩基度の測定結果を観察すると, アントラキノン, p-ナフトキノン等の有するpKと, アントアントロン, ビオラントロン等の有するpKとの間に, 核の増大によつて生ずるpKの差は殆んど見られず, 核が増大してその有する共軛二重結合の有するπ電子の数が増加しても, これらキノン類の有するカルボニル基に対する影響は殆んど見られず, pK-7〜-8の間において飽和状態となる。又メチレンアントロン, ベンゾナフテノン, ベンゾァントロン等カルボニル基1個のみを有する化合物群とこれらカルボニル基2個を有するキノン類との間に数千倍以上の塩基度の見掛上の著るしい差が観測される。著者は上述の現象を説明するために, これら化合物群の有するpKはH+附加以前の共鳴エネルギーと附加後の共鳴エネルギーの差に比例するものとし, 又この共鳴エネルギー差はH+附加後の主要共鳴構造数と附加前の主要共鳴構造数の比に指数函数的に対応すると考え更にアントラキノン等キノン類には2段階の解離があり実測値は第二段階のpKであると仮定すれば, ベンゾアントロン類等カルボニル基1個を有する群とアントラキノン等カルボニル基2個を有する群とのpKの見掛上の著るしい差は, その主要共鳴構造数を計算することによつて簡単に説明され, 又アントラキノン類とアントアントロン類等の間に見られるpKの飽和現象も説明されうる事を見出した。
- 社団法人 有機合成化学協会の論文
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