神経—グリア回路網の機能異常を原因とする慢性疼痛および薬物依存に関する研究
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概要
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ミクログリアやアストロサイトといったグリア細胞が,神経回路網と密な相互作用を持ち,シナプス伝達の調節,脳機能発現に積極的に関与することは,今やよく知られることである.一方,慢性疼痛と薬物依存は,一見異なる現 象ではあるが,いずれも神経回路網の可塑的変化がその根底にあり,グルタミン酸神経系が重要な役割を果たすなど共通点も多く見られる.著者は,麻薬性鎮痛薬や覚醒剤といった依存性薬物の長期投与により,一部の脳部位において,主にアストロサイトに発現するグリア型グルタミン酸トランスポーターGLT-1の発現量が減少することを見出した.さらに,グルタミン酸トランスポーター阻害薬や活性化薬を用いた行動薬理学実験,組換えアデノウイルスを用いた脳局所へのGLT-1遺伝子導入実験などから,依存性薬物によりアストロサイトのグルタミン酸取り込み機構に破綻が生じた結果,薬物依存が形成されることを明らかにしてきた.一方,慢性疼痛においても,脊髄内のミクログリアやアストロサイトが重要な役割を果たすことが明らかにされてきたが,炎症性疼痛モデルや神経障害性疼痛モデル動物の脊髄でも同様にGLT-1発現量あるいは膜局在量の減少が生じており,グルタミン酸を介する神経—グリア回路網の異常が,慢性疼痛の基盤となる神経可塑性を引き起こすことを明らかにしてきた.さらに,このとき生じるGLT-1エンドサイトーシスについて,神経—グリア共培養系を用いてその分子機構の一部を明らかにしている.また,グリア細胞の活性化機構の一部に様々なTRPチャネルが関与することを見出しており,実際に,TRPM2遺伝子欠損マウスでは炎症性疼痛や神経障害性疼痛が減弱することを明らかにしている.このような基礎的知見が,薬物依存や慢性疼痛といった慢性神経・精神疾患に対して,「グリア細胞」を標的とした新たな治療薬の創製に貢献できることを期待している.
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