どんな論文がどのように不採択となるのか : 二つの事例研究から
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概要
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学術雑誌の投稿論文審査(査読)が適切に行われていない問題を検討し、改善策を探ることが本論の狙いである。問題の性格を明らかにするため、不採択となった心理学論文二編の内容と査読所見とを検討した。一編は論理的・形式的議論から、脳とは独立の魂の存在を推論するもの、もう一編は特殊な教育現場における心理療法の事例から、治療論と研究方法の見直しとを論じたものであった。対照的な性格を持つこれらの論文にはしかし、着想の斬新さという共通点があった。査読所見を検討したところ、いずれの論文についても、見解の共通点がほとんどなく、不採択理由のすべては誤解に基づくか、不適切なものであった。心理療法の論文については、不採択と結論しながら理由のまったく挙げられない所見や、自分に分からないことをもって理由とした所見が目立った。また再審査の場合には、前回の所見の指摘を無条件に正しいと見做し、投稿者の反論を考慮せず、指摘を採り入れないことをもって不採択とする傾向も顕著であった。言い換えれば、思い付きによるあら探しと権威主義とが、査読の全般的傾向をなしていた。これらの結果から、少なくとも心理学領域においては、投稿論文査読はふさわしい役割を果たしていないことが、強く示唆された。これはまた、この分野での大学・大学院教員の資質と行動の適格性への疑惑をも惹起する。また隣接する他の分野においても、類似の問題の生じている可能性が示唆される。投稿論文の原則的な全編公開と公開での評価が、解決策となるであろう。
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