北辺の横穴墓古代人―宮城県矢本横穴墓群出土人骨の形質
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概要
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宮城県東松島市の矢本横穴墓群は,7世紀中葉から9世紀初頭にかけて造営された古代の墓地遺跡である。2003年の宮城県北部連続地震によって丘陵斜面が崩壊したことに伴い翌年から発掘調査が行われ,2006年までに約40基の横穴墓から多数の人骨が出土した。これらの人骨は,全体的に低顔傾向にあり,顔面平坦度は前頭部に関しては高いが,鼻骨の突出はやや弱い。頭蓋と歯冠の計測値によるペンローズの形態距離や形態小変異に基づく尤度法を用いた解析では,大半の個体が北部九州・山口弥生人,東日本古墳人,現代日本人に近接するものの,64号墓出土の一部の人骨に関しては,東日本縄文人,続縄文人,北海道アイヌのグループに類似することが示された。一方,日本列島の先史・歴史時代集団や仙台平野周辺の遺跡集団間で同様に頭蓋計測値からペンローズの形態距離を求めたところ,時期的にも地理的にも近接する他の横穴墓集団と矢本横穴墓集団は,いささか異なる特徴を有することが明らかとなった。また,平均身長は男性で約160 cm,女性で約150 cmと推定され,当時としては若干低い値を示した。このような矢本横穴墓集団の形質は,古代の仙台平野におけるエミシの律令体制支配や移住民との関係の一面を垣間見せるものである。
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