家蚕の卵及び複眼の色素に関する遺伝生化学的研究
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概要
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家蚕の数種の卵色, 眼色突然変異並びに数種の野蚕, Drosophila などを試供して, これらの複眼及び卵の色素を抽出し蟻酸を溶媒として paper chromatography によつて識別し, 次の結果を得た.1. 家蚕正常型の卵, 複眼並びに野蚕の複眼には, 何れもRf値0.82, 0.76, 0.50にそれぞれ orange, red, purple の3色素が認められた. これらを再抽出して吸収曲線を比較し, 更に化学的性質を調べた結果から考えて, これらの卵の3色素はみな複眼中の3色素と同じものであることが判明し, これらの色素を仮に +chrome I, II及びIIIと命名した.2. 家蚕の各種眼色突然変異間のこれら3色素の異同についてみると, w1, w2は3色素を全く缺き, w3は+と異ならず, reは +chrome Iのみ+より多量に存在するがII, IIIを缺き, od, w3olでは3色素共に+より少い. 野蚕では天蚕, 柞蚕, ヒマ蚕, 〓蚕及び樟蚕等の何れに於ても3色素が認められた.3. 家蚕卵の漿液膜に於ては, w1は3色素を缺き, reは複眼と同様にIを有するのみでII, IIIが存在せず, od, スペイン (褐卵) は3色素共に少く, w2, w3, カンボージユ及び不越年卵の人工着色卵では +chrome Iに似た orange の色素を微量有する.4. これらの3色素の複眼, 卵の着色に件う形成順序は, +chrome Iが最初に形成され, 次第にII, IIIが後から形成されるが, その状態は卵, 複眼共に同じである.5. +chrome Iは450mμに吸収極大があり, Hydrosulfite で還元すると赤色の沈澱を生じ, H2O2で酸化すると黄色となり Drosophila のbrown pigment, Goodwin の所謂 insectrubin の酸化型と極めて類似する. +chrome IIは300〜540mμの間で吸収極大が認められず, IIIは520mμに極大値があり, 何れも Hydrosulfite によつて不変でH2O2で酸化すると無色となる.6. 組織学的観察では, reの複眼の色素粒分布は+の化蛾数日前のそれに近似する. また正常型の卵漿液膜には紫褐色色素粒が密に分布するのに反して, reには赤色色素粒が密に分布する.7. 以上の事実から, これらの色素は 3-hydroxykynurenine から +chrome I, II及びIIIが形成れ, reはII或はIIIまたはその両者に至る酵素或は酵素類似物を缺除するのか, 或はその他の条件によつて, II, IIIの色素が形成されない突然変異であろうと考えられる.
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