人口減少時代における不動産契約法理論の試論 : 沖縄県・波照間島と奈良県・今井町での空き家問題のフィールド調査から(<特集>日本における「都市法」論の生成と展望)
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概要
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本稿は, 人口減少, 住宅ストック過剰, まちなみ重視の時代における不動産契約法理論のあり方を沖縄県・波照間島, 奈良県・今井町での空き屋問題の解決方法を事例として考察していく. 空き屋活用が進むには, 貸し手-借り手の間の信頼関係醸成のための取引コスト, 空き屋の改修コストの負担問題が解決されなくてはならない. 1990年代に提唱された定期借家権制度は, 事後の契約終了を容易にすることで事前に取引コストをかけることを回避させ, 安定した借家経営ができると判断した貸し手に改修コストへの投資を促そうとするものであった. しかし, 空き屋所有者の意識や実際の契約締結過程を見るならば, 貸し手-借り手の関係は, 利潤よりも地域コミュニティの存在を絶えず意識したものになっており, 地域コミュニティが両当事者の信頼関係の醸成に上手く関与できた場合に空き屋活用は成功している. 空き屋再生の改修コストについては, まちなみ景観を享受する観光客に環境協力税という形である程度負担してもらうことも可能である. 空き屋活用の成功は, 貸し手-借り手のみの便益となるのではなく, 地域コミュニティの側にとっても開かれたコミュニティヘと成長できるという意味で便益がある. 既存住民が外部からの「観光的まなざし」に触れることは, 地域の良さ, 古民家の良さを再発見して新たなローカル・アイデンティティを構築していく契機ともなる. 本稿は, このように地域コミュニティとの連関において幅広く不動産の契約過程を捉える理論が必要であることを主張するものである.This paper aim to sketch the new theory of the contract law on real estate in the era of population decreasing, housing stocks overflowing, and urban landscape more evaluated. To promote empty housing's lease, people have to charge the transaction cost of contract negotiation and the reform cost. The term-fixed contract system, which was considered as the solution for activation of leases, aimed to avoid the charge of the a priori transaction cost by facilitating the a posteriori dissolution of contract, and to impel for the owner to reform the old housing by the guarantee of his long-term profit. But, from field research on Hateruma Island and Imai-cho, the local community has the important role to elaborate the trust between house owner and leaseholder and to support new comer's life. From survey research in Hateruma, the tourists, who are beneficiary of nice landscape, have the intention to participate the reform cost through the payment of local environmental tax. The success of reuse of empty housings is not only benefit for both contract's parties, but also benefit for the local community which could improve the nature of his community more openly, find the value of local heritage and old housings, construct the new local identity. The contract processes of real estate must to be understood more broadly and in the relationship with local community.
- 2010-03-10
著者
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