へき地青少年の精神衛生状態 ―文化接触仮説への検討―
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概要
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へき地の児童・生徒の精神衛生状態の変化をみるために、へき地・農村・都市の三地区を設定して知能検査と面接、精神健康度診断検査、家庭環境診断検査を行った。知能検査の結果は低IQ者がへき地に多く、平均IQでも一般より低いが、それは精神衛生上の問題と結びつく性質のものではなく、社会的文化的なへき地の地域性によるものであると考えたいし、また、低I Qは直ちに精神薄弱の高率の出現を意味することにはならない。精神健康度の検査結果では、へき地児童は農村・都市児童に比べて精神的健康の状態が著しくよく、中学三年でこれをみると、児童の示す型と異なって都市(農村)型に近くなる。これは、青年期の自我の伸長と生活空間の拡大、即ち、心理学的環境の再構成と相まって、環境に他の文化体系が組みいれられ、それへの憧憬と志向(心理的従属)が現在所属する文化体系との間に内部葛藤をひきおこし、精神的健康の損われた状態を示すのではないか。換言すれば、新しい文化体系に接触することによって、環境への主体的な態度の変容がおこり、将来の展望や現実生活への適応をめぐって葛藤を生ずるのであろう、と考えるのである。本調査の結果はサソプルの片よりなどの手続き上の不備を考慮に入れつつも、著者の1967年の予測的見解が一応証明されようとしているものといえよう。今後、生括意識の調査や心理学的諸検査を加えることによって、更にこの点の考察を深めていきたいと考える。
- 奈良教育大学教育研究所の論文
- 1973-03-10