橋田邦彦の科学哲学(I) : 昭和5年から昭和8年初頭

概要

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林髞は「全体思想と政治的結合の悲劇」(昭和30年)と題する一節において,橋田邦彦(1882〜1945)の場合にふれて次のように述べている.生理学の研究者はその認識論的基礎の検討に際しては"誰でも一種の全体思想を持つ".しかし,その全体論的思想を政治的動向と結合することは"本来の認識論的努力を失い,或いは悪しく導くもの"である.今回は,橋田が林の言うように,はたして生理学の認識論的批判から得た全体論,全機性の概念を政治的動向と結合したのかどうか,結合したのであればどのような結合であるのかという問題はひとまずおき,林が述べている他の部分,生理学者は多かれ少なかれ全体論を抱くという点を,橋田において問題にしようと思う.すなわち,本論文においては,橋田が全機性という考えを抱懐するにいたった経緯(昭和5年〜昭和7年)と,全機性概念が形成された当初(昭和7年,昭和8年初頭),その概念が持っていた意味を彼の専攻した生理学との関連において明らかにする予定である.
日本科学史学会の論文
1977-06-30