初期仏教聖典成立の諸問題 : 安世高訳『本相猗致経 T36』の研究から
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概要
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本稿は安世高訳『本相猗致経』の中心思想を研究し,そして本経とその同類テキストとの関わりを確認する上で,初期仏教聖典の成立を問題視して,その文型変遷のプロセスを考察することにする.林屋友次郎(1938)は「安世高訳の雑阿含と増一阿含」の文中に『本相猗致経』に対応するパーリ経典をA.V.21-22 Garava-s.と誤記したが,それに対応する経典は,実のところA. X. 61-62である.また,宇井伯壽は『訳経史研究』の中にも,本経と関係するパーリ仏典に言及しなかった.さらに,近年アメリカの学者Jan Nattierは,そのパーリ文のテキストがないとも主張している.安世高訳『本相猗致経』は僧伽提婆(Samghadeva)が東晋隆安二年(398年)に訳出した『中阿含経・51経(本際経)』のテキストとほぼ完全に対応し,さらにパーリのA. V. 62 Tanhasuttaにも大変類似している.『本相猗致経』の漢訳文をパーリ文の内容と対照して見れば,aharaは一般的に「四食」の「食」と訳されるが,安世高はaharaを「従致」と訳したのに対し,僧伽提婆はそれを「習」と訳した,という結論に達する.また,同類経典の文型に関して,『本相猗致経』,『中阿含経』の第51経・52経・53経,ないしパーリのTanhasuttaは,みな共通の文型構造を持っている.パーリテキストのTanhasuttaが現存することから,『本相猗致経』と『中阿含経・51経(本際経)』とは同本異訳の関係にあるに違いない.さらに,『本相猗致経』の文中に「比丘」の語が28箇所あるのに対し,TanhasuttaのA. B. C. Dの文中には呼格のbhikkhaveが26箇所ある.これらの理由から,『本相猗致経』は本来,梵文の原典があったに違いない.また,以上の類似する五つの経典の文型構成に関して,簡単な文型から次第に複雑的文型へと変遷していったことも推定できる.その変遷の模型には,簡単・原始的テキストから完全重複テキストへ,そして完全重複テキストから部分重複テキストへという三つの段階があるとも考えられる.
- 2013-03-25
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