表皮水疱症の再生医療
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概要
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表皮水疱症は,皮膚基底膜領域における接着構造制御蛋白の遺伝子異常により,日常生活の軽微な外力で表皮が剥離して全身熱傷様の水疱,潰瘍を形成する遺伝性水疱性皮膚難病である.近年の再生医学研究の進展により,骨髄移植,骨髄幹細胞移植による表皮水疱症の再生医療が探索されつつある.表皮水疱症の病態:表皮水疱症は表皮・基底膜間および基底膜・真皮間を連結しているタンパク分子群の遺伝子異常により発症し,外力で表皮基底細胞がちぎれて表皮内水疱を形成する単純型,表皮・基底膜間で剥離して接合部水疱を形成する接合部型,基底膜と真皮間で剥離して真皮内水疱を形成する栄養障害型に分類される.骨髄由来細胞による皮膚再生メカニズム:長年広範囲の表皮剥離を繰り返す結果,大量の表皮幹細胞を喪失している表皮水疱症患者皮膚の表皮再生機序として,我々を含む国内外の複数の研究グループは,骨髄内幹細胞が末梢循環を介して損傷部皮膚に動員され,水疱部皮膚の再生に寄与していることを明らかにした.表皮水疱症に対する骨髄移植療法:最近米国ミネソタ大学の研究グループは世界で初めて劣性栄養障害型表皮水疱症に対する骨髄移植を実施し,皮膚症状の改善効果を報告した.しかし,7例中2例が経過中に死亡しており,より安全な骨髄移植治療プロトコール開発が必要不可欠である.表皮水疱症に対する骨髄間葉系幹細胞移植療法:南米チリの研究グループは,重症劣性栄養障害型表皮水疱症の2症例に対して健常者骨髄由来培養間葉系幹細胞を皮下移植し,その有効性を明らかにした.しかし移植した間葉系幹細胞は数ヶ月で次第に減少する可能性も併せて示された.表皮水疱症に対する骨髄間葉系幹細胞血中動員因子を利用した再生誘導医療の可能性:我々は剥離表皮から放出されるHMGB1が末梢血液を介して骨髄間葉系幹細胞を剥離表皮部皮膚に集積させて損傷皮膚再生を強く誘導していることを見出した.この成果は,HMGB1投与により骨髄間葉系幹細胞を生体内で水疱部皮膚に誘導する再生誘導医療の可能性を期待させる.終わりに:幹細胞染色体への遺伝子導入が発癌を引き起こす可能性が問題となっている現在,再生医療に寄せられる期待が高まりつつある.現在世界中で進行している再生医療研究の先に,表皮水疱症の根治的治療が実現する日が来ることを期待する.
- 国立保健医療科学院の論文
- 2011-04-00
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