法廷談話実践と法廷通訳 : 語用とメタ語用の織り成すテクスト
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概要
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本稿では,現代言語人類学の枠組みに依拠し,スペイン語通訳を介した裁判員裁判のやりとりを傍聴席から筆記したデータを次の観点から考察する.まず,1)証言の信用性を判断する鍵を握る「一貫性」などの要素は客観的で絶対的なものではなく,談話実践においてメタ語用過程を通して構築される「文化的な」ものであること,2)法廷規範的意識(法廷語用イデオロギー)では法廷談話に影響を与えるべきではない存在とみなされている通訳人も,実際には詩的談話構造の構築過程に参与する存在であること,すなわち,訳出された証言の「一貫性」,あるいは「非一貫性」の構築に深く関与していること,3)法廷談話実践は,言語使用者の意識に比較的のぼりやすい「言われたこと」(言及指示テクスト)と意識にのぼりにくく前提的に指標される「常識」などの文化的ステレオタイプ(Putnam, 1975)や語用・文化イデオロギーなどを介したメタ語用作用によって織り成されるテクストであることを示す.以上により,「市民感覚」が導入された裁判員裁判は,日本的な「常識」に強く依拠した制度的談話の場となり,外国語話者の被告人にとって談話的「異文化」の差異が訳出されることなく拡大している場となっている点を指摘し,法廷通訳人の役割を多層的な談話実践から再考する必要性を示唆する.
- 2011-03-31
著者
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