明治後半における不正肥料問題 : 新規参入の信頼獲得と農事試験場(パネル(2)情報・信頼・市場の質,第78回全国大会小特集)
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概要
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1900年前後の日本の肥料市場では,化学肥料や動物質肥料などの新しい肥料と,これらを扱う新規参入者が増えていた。肥料自体や参入者についての情報不足から混乱が生じ,市場の質は低下した。そのような中,農商務省農事試験場は1893年から,肥料の分析を「公衆」から受け付ける依頼分析制度を始めた。この制度は任意のものであるため不正を強制的に排除するには十分ではなかったが,手数料が安く公的機関の「お墨付き」が得られるため,新肥料を扱う新規参入者によって多く利用された。ここで作られた成分など新肥料の情報は,試験場が公表するだけでなく新規参入者によって広告や販売促進用冊子などの中で積極的に使われ,当該肥料と自らに対する信用の獲得に利用された。さらに,既存の市場である肥料市場では情報伝達経路が整っており,新規参入者が情報を広めるには好都合であった。この制度を利用した肥料商の中には信用を得て成長する者も現れ,肥料需要と新しい肥料の供給を結ぶ役割を果たすようになった。参入を促し新肥料の周知を進めることで,依頼分析制度は肥料市場の混乱を鎮め,需給逼迫の緩和に貢献したのである。
- 2010-11-25
著者
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