『金光明経』「懺悔品」 : 懺悔するのは誰か
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概要
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筆者はこれまで,『金光明経(Suvarna[-pra-]bhasottamasutrendraraja)』の制作意図に関して以下の<仮説>を提示してきた.・大乗仏教徒の生き残り策としての経典:『金光明経』に見られる,従来の仏典では余り一般的ではなかった諸特徴は,仏教に比べてヒンドゥーの勢力がますます強くなるグプタ期以降のインドの社会状況の中で,余所ですでに説かれている様々な教説を集め,仏教の価値や有用性や完備性をアピールすることで,インド宗教界に生き残ってブッダに由来する法を伝えながら自らの修行を続けていこうとした,(大乗)仏教徒の生き残り策のあらわれである.・一貫した編集意図,方針:『金光明経』の制作意図の一つが上記の「試み」にあるとするならば,多段階に渡る発展を通して『金光明経』制作者の意図は一貫していた.・蒐集の理由,意味:『金光明経』は様々な教義や儀礼の雑多な寄せ集めなどではなく,『金光明経』では様々な教義や儀礼に関する記述・情報を蒐集すること自体に意味があった.本稿では『金光明経』の中核をなす章であると見なされてきた第3章「懺悔品(Desana-parivarta)」に焦点を当て,「懺悔品」における懺悔の重要性や,懺悔の実践者は誰なのか,そして増広部の増広理由を探ることを通して,<仮説>の検証を続けた.その結果,「仏教が斜陽となる中,仏教の存続に危機感を抱いた一部の出家者たちは,在家者から経済的支援を得てインド宗教界に踏みとどまり,仏教の伝承と実践という義務を果たすため,『金光明経』を制作した.彼らは『金光明経』の価値や有用性や完備性をアピールするため,適宜『金光明経』を増広発展させていったが,「価値や有用性のアピール」という彼らの制作意図は,『金光明経』経題の由来となり『金光明経』制作の中核をなすと考えられてきた「懺悔品」(増広前の第一部・第二部.その主題は懺悔の実践ではなく,『金光明経』聞法の勧奨)においても明確に読み取ることができた.そして「懺悔品」の増広(第三部)に際しては,「『金光明経』の完備性のアピール」のため「仏説たる経典として,より体裁を整える」ことに主眼が置かれた.」という結論を得たことで,所期の目的を達成した.
- 2012-03-25
著者
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