ローカル・コモンズにおける地域住民の「主体性」の所在 : 実践コミュニティの生成と権力関係について
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概要
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近代化とグローバル化の進展にともない、ローカル・コモンズの管理における地域住民の主体性が問い直されている。本稿では、タイ東北部の事例を参照しながら、まず、ローカル・コモンズの主体のあり方を整理し、その上で、ローカル・コモンズの主体としての地域住民と社会に散在する権力との関係について考察する。「実践コミュニティ」の概念を用いることで、村落コミュニティのメンバーシップとは境界を異にするローカル・コモンズ管理への実質的な参加者を把握することができる。実践コミュニティと外部者との間のインタラクションは、ブローカーによって媒介され、外部の環境によって変化する。知識の権力はこうしたインタラクションを考える上で重要な視点である。共有資源管理においては、持続可能性に関する科学的な知識が地域住民の主体性を脅かしている。これに対し、地域住民は、持続可能性の意味を再交渉し読み替えを行うエイジェンシーとして彼らの主体性を守ろうとする。この読み替えによる対抗言説形成の過程に知識人が参画すると、地域住民にとって助力となると同時に、主導権を握られ、生活者の視点が、知識人のイデオロギーに再度、読み替えられ、結局、生政治的な知識の権力に従属することにもなりかねない。こうした状況を打破し、ローカル・コモンズ管理における住民の主体性を保つためには、実践レベルで公表された言説を緩やかに実行することで生活世界を防衛しつつ、地域住民自身が外部の知識の読み替えができるような能力を持つように学習・経験を積み重ねることが必要である。
- 2011-09-30
著者
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