「実践」としての環境保全政策 : ラムサール条約登録湿地・蕪栗沼周辺水田における「ふゆみずたんぼ」を事例として
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概要
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本稿では,行政の提示する環境問題の解決策を地域住民が受け入れ実践していく経緯を明らかにし,次第に住民自身が環境を保全する主体となっていく過程を考察する。そして,政策としての環境保全が「実践」としての環境保全となる可能性と,その意義について議論する。本稿で取り上げる蕪栗沼(宮城県大崎市)は日本有数のマガンの飛来地で,現在,飛来の一極集中とそれに伴う沼の環境悪化という問題を抱えている。2003年,農閑期の水田に水を張り,マガンのねぐらとして利用し,ねぐらを分散させて沼の環境保全を図る目的で,沼の南側に隣接する伸萌集落の水田での「ふゆみずたんぼ」を行政が提案した。実施に際しては体力やコスト面で負担の大きい有機農法に切り替える必要があるが,米への付加価値と,「特別枠」での圃場整備事業の採択を背景に,現在,10戸の農家が「ふゆみずたんぼ」に取り組んでいる。だが,農家にとってマガンは稲を食い荒らす「害鳥」である。それにもかかわらず,人々は「ふゆみずたんぼ」を実施し,2005年には自らが所有する水田のラムサール条約登録に合意した。これは一見すると,行政と地元農家の協働で円滑に蕪栗沼の環境保全が進められているように見えるが,現状に対して地元農家は「しっくり」いかず,彼らは「マガンのため」という行政の意図とは異なる次元に目的を定めることで矛盾する感情に折り合いをつけ,「ふゆみずたんぼ」に取り組んでいる。農家独自の取り組みとしての「実践」が,結果的には行政が意図する「政策」の内容と重なり合う事例は,環境保全を担う主体のあり方を問う際に有効な視座を提示できる。
- 2008-11-15