自然公園内に受け継がれる「ヤマ」 : 北海道立自然公園野幌森林公園を事例として
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概要
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本稿は,札幌市近郊の大規模森林を事例に,行政の管理下にある自然環境に対して,かねてからその周辺に暮らす人びとが今日に至るまでどのようにかかわってきたを考察したものである。野幌国有林は,昭和43年(1968年)に「北海道開基百年」を記念して道立自然公園に指定されて以来,「野幌森林公園」として知られている。ライフスタイルの変化や都市化などにより自然環境に触れる機会が減少傾向にある現代,そこは近隣住民にとっての「身近な自然」であり,多くの人びとに幅広く利用されている。一方で,指定直前まで,そこは周辺部落に暮らす人びとの生活の糧「ヤセ」であった。ただし,次第に生活の糧としての国有林の役割は薄れ,自然と「ヤマ」との関係は希薄になる。野幌部落の人びとは物理的な要因を認めつつも,その決定的な理由を「公園化」に求める。そしてそこが公園であるという現実を理解しながらも,彼らは今なお野幌国有林を「ヤマ」と呼び,「ヤマ」を守る活動を続け,そこを「ヤマ」として生活意識につなぎとめている。よって,現在の野幌国有林を,「重層的な環境意識を備えた空間」として提示することができる。さらに,野幌部落の人びとは今日に至っても国有林を「自分たちのヤマ」とし,「かかわることの正当性」を主張する。その根拠は,生活設計の結果として大地を切り開く行為としての「開拓」にある。つまり,具体的な働きかけの場面を喪失しても,入植当初からの土地に関する区分と領有意識を受け継いでいる意味において,ある種の「所有」を正当化しているのである。
- 2006-10-31