「生業の論理」を組み入れた自然再生のあり方 : 琵琶湖・有害外来魚駆除事業の事例から
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概要
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本研究は,琵琶湖での有害外来魚駆除事業を事例に,担い手である漁師たちの生業の現場から問いなおす作業を通じて,生業者がもつ論理を順応的に組み入れた自然再生のあり方を考察するものである。この有害外来魚駆除事業をめぐっては,生態学者や漁民が中心となる外来魚駆除派と釣り産業や釣り人を中心とした擁護派に分かれ,事業の賛否に関する議論が起こっている。しかし従来の議論では,駆除をめぐる二元論が先行し,駆除事業が生業の現場でいかに実践されているかがまったく問われていない。駆除事業の実施後,漁師たちは新たな外来魚漁を従来の生業暦の空白期間に取り入れることで対応している。この結果,彼らがこのままの対応を選択した場合,仮に駆除事業を継続しても外来魚漁が持続的に展開する可能性があることを指摘した。とくに担い手にとっての駆除事業は,駆除活動で収入が補填される一方,自らの利益を生み出す構造や「自然」への関わり方をめぐるせめぎ合いを発生させるものであった。これは,漁業という生業に従事する彼らの対応が「自然への関心」とともに「生計(経済)への関心」という二つの論理に裏打ちされているからである。これを踏まえ本稿では,生業者を組み入れた自然再生手法を議論する場合,彼らが併せ持つ論理への理解が重要であることを指摘した。その上で,この論理を自然再生のプロセスにいかに組み合わせ,あるいは使い分けていくのかという構築論的で順応的な手法を具体例に即しながら検討し,今後の自然再生のあり方について考察した。
- 2005-10-25