異文化が問う正統と正当 : 先住民族の自然観を手がかりに環境正義の地平を広げるための試論(<特集>環境をめぐる正当性/正統性の論理-時間・歴史・記憶-)
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概要
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環境保護と環境正義を追求する運動における正当性と正統性の問題を,先住民族の自然観を手がかりに批判的に分析する。先住民族に対する主流社会からの眼差しのあり方として,弱き者(2.1.),美しき者(2.2.),異なる者(3.1.〜3.3.)という3つのイメージをとりあげる。とりわけ,先住民族と主流社会のあいだに横たわる異文化の壁がもたらす認識の齟齬について重点的に論じる。この齟齬を見落としてきたことが,従来の自然保護・保全運動における先住民族の疎外・抑圧の原因でもあった。論考の素材として,本稿では主に,オーストラリア先住民族(アボリジニー)と日本の先住民族であるアイヌの事例に言及していく。自然と人間のあいだに本来あった身体的感応性を環境運動がどう受けとめるか(3.1.),特定の土地と特定の人間集団をめぐる特異的な関係のあつかい(3.2.),先住民族の自然観・環境知識・資源管理技術を評価する深度をめぐる問題(3.3.),などについて順次議論する。3.2.では,近代民主主義の制度にもとづく正義と先住民族の文化伝統とが抵触するようなケースをどう考えるか,という点にも踏み込む。本稿が提示する結論は,i)異文化に対する無理解や抑圧が自然破壊を推し進める因子のひとつであること,それゆえ,ii)自然を守るためには「文化的多様性」への理解と擁護が必須の条件であること,そしてそれを実践するうえで,iii)自然を守る運動は自分たちの文化や社会の既存の価値観に対する見直しを含むものでなければ高いレベルでの環境正義に到達しえない,というものである。
- 2005-10-25
著者
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