北アジアにおける乳加工体系の地域多様性分析と発達史論
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿は、北アジアのモンゴル系言語集団における乳加工体系の内部構造を分析し、乳加工体系の地域多様性の特徴を栄養学的・地理的に類型分類することを通じ、その発達過程を推論し、北アジアで特徴的に乳加工体系を変遷させた要因を分析することを目的とした。北アジアの乳加工技術の特徴は、1)非加熱酸乳化クリーミングと加熱クリーミングが必ず生乳に対する最初の働きかけに位置しており、2)乳酸発酵、酸敗乳化凝固、強酸乳添加、アルコール発酵が生乳もしくはスキムミルクから展開する自由度の高い乳加工技術であるために北アジアの乳加工体系を複雑にさせ、3)加熱クリーミング、アルコール発酵、強酸乳添加は、ほぼ全ての事例に共通しており、これらの乳加工技術がアジア北方域の乳加工技術の特徴を形成していることである。北アジア周辺域でみられる酸敗乳化凝固・チャーニング・脂肪精製の乳加工技術、および、北アジアの特徴ともなっている酸乳酒を加工する技術は、西アジアの発酵乳系列群の乳加工技術と高い関連性が確認されたこと、搾乳は西アジアで既に紀元前7000年紀には開始されていたことが考古学的遺物から抽出された脂肪酸の安定同位体分析によって確かめられていること、そして、母畜は実仔畜以外には授乳を許さないという習性があるため、人間が搾乳を始め、搾乳の技術を開発することは極めて難しかったことであろうことから、搾乳・乳加工は西アジアに起原し、西アジアから発酵乳系列群の乳加工技術が北アジアに伝播し、冷涼環境という北アジアにおいてクリーム分離系列群やアルコール発酵が発達していったと推察された。「冷涼性」こそ、北アジアの乳加工体系の特徴を形成させたコアファクターと考えられた。
- 2010-12-31
著者
関連論文
- フランス国中南部丘陵地帯の乳加工体系--オーヴェルニュ地域圏の酪農家の事例から
- コーカサスにおける乳加工体系--グルジア・アルメニアの農牧民の事例を通して
- 発酵乳系列群からクリーム分離系列群への発達史論 : シリアの半農半牧民の事例から
- 中国新疆ウイグル自治区昌吉市阿什里合薩克族郷における定住化政策と牧畜形態の変遷
- モンゴル中央部における宿営地の季節移動システム : モンゴル牧畜民の定住化はあり得るのか?
- モンゴル国ドントゴビ県における宿営地の季節移動システム
- インド西部の乳加工体系と乳製品流通
- モンゴル高原中央部における植物の生育に影響を及ぼす自然環境の諸要因の分析
- ADEOS-IIモンゴル高原実験領域における植被率の推定と分類図の作成
- 衛星データを用いた植生純一次生産量推定のための光合成量の時間積分近似法 : モンゴルにおける事例研究
- モンゴル草本植物のフェノロジーとバイオマスの年々変動
- 衛星データを用いた植生純一次生産量推定のための光合成量の時間積分近似法:モンゴルにおける事例研究
- GPSを利用したモンゴル国遊牧ヒツジ・ヤギ混成群の採食移動/休息における気象条件選択性解析(放牧・遊牧・社会科学)(日本家畜管理学会・応用動物行動学会合同 2004年度春季研究発表会)
- 研究課題 モンゴル国ドントゴビ県における植物含水量の広域推定(2.2.一般研究)([2]共同利用研究)
- 北アジアにおける乳加工体系の地域多様性分析と発達史論
- モンゴル高原中央部における家畜群のコントロール : 家畜群を近くに留める技法
- モンゴル遊牧民の食料摂取における乳・乳製品と肉・内臓の相互補完性 : ドンドゴビ県のモンゴル遊牧民世帯Tの事例を通じて
- 古・中期インド・アーリア文献「Veda文献」「Pāli聖典」に基づいた南アジアの古代乳製品の再現と同定
- 新たなる価値の創出
- 古・中期インド・アーリア文献「Veda 文献」「Pali 聖典」に基づいた南アジアの古代乳製品の再現と同定