精神科における長期入院者に対する作業療法の役割-対象者の思いを形にすることの大切さ-
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
精神科において入院が長期化し退院が困難な長期入院者は,スポットが当たらず,個人的介入がされにくい。そこには,長期入院者自身「内なる偏見」があり,関わる側にも,精神に障害を持つ人たちは決定能力に欠陥があるといった「内なる偏見」がある。こういった相互の偏見が,長期入院者への活動提供に悪影響を及ぼしている。本来作業療法士は長期入院者にこそスポットを当て,対象者の思いを引き出す重要な役割を持っている。そこで今回,入院が長期化し参加する作業療法も単調化した対象者に対して,作業遂行能力を再評価した。評価後,対象者自身の作業遂行能力を基に治療構造の再構築することに着目した。具体的な支援として,対象者の実生活に基づいた作業活動を導入し,作業療法士との関係性の構築から,他者との交流を介していった。その結果,自己の作品に対して愛着を示すようになり,対人関係においても変化が見られた。この変化は,生活につながった個人に意味のある作業選択が対象者とマッチし,自分のために枕カバーを作るといった自己愛を満たす体験となったからと考える。また,対人関係において変化が見られた要因として,筆者から受け入れられる体験を通して自己が承認され,自分の存在価値を見出すことになった。さらに社会性や自立性が芽生え,思いやりの能力が獲得できたことで,他者の言動を受容できるようになったからと考える。このように長期入院者にスポットを当て,残存能力を引き出す関わりをするには,自信の回復と成功体験を得られるような気付きや,自分は出来るという感覚を持てる関わりが必要であり,退院を諦めかけていた患者に有効であることが実証されたと言える。
- 2009-12-20
著者
関連論文
- サイコドラマにおける Role Theory の実際
- 攻撃性を表出するサイコドラマの効用
- 学生の性格特性・ストレス・ライフスタイルが学業成績に与える影響について
- 精神科における長期入院者に対する作業療法の役割-対象者の思いを形にすることの大切さ-