第二言語が母語に与える影響 : 断り発話の分析から
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概要
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中間言語語用論研究の大半は、母語と第二言語(L2)の間の影響の方向は母語からL2であるとしてきたが、近年、L2も母語に影響を与えるとする研究もある。語用論レベルでL2が母語に影響を与えるというには、母語と文化的に大きく異なる言語の学習者を対象とした調査が必要である。本稿は、英語に接触する頻度の異なる日本人大学生の2グループを対象に、母語での断りの発話行為に英語の影響が見られるかどうかを探る。調査はポライトネス理論の枠組みでデザインした。英語に接触する頻度の低いグループとは異なり、接触する頻度の高いグループには、このグループが日々接触しているアメリカ人と同様、距離を「疎」と捉えた相手に直接断り表現を、「親」と捉えた相手に間接断り表現を、という断り表現の使い分けが見られなかった。相手との距離に応じた断り表現の使い分けが見られないところに英語学習の影響が現われている。L2の影響を受けた日本語は日本語のバリエーションの一つである。日本語教育で日本語のバリエーションを扱うとき、男女差や地域差などを反映した日本語だけでなく、L2の影響を受けた日本語にも関心を向ける必要性を提起したい。