『八千頌般若経』における「大乗」の説示 : 経文改変とその意図
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概要
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『八千頌般若経』(以下『八千頌』)には梵・蔵・漢にわたる文献が多数現存している.なかでもそのチベット語訳には全く同じ経題をもちながら,二種類の系統が現存しており,これは大乗経典編纂の過程を探るためにも貴重な資料となるものといえる.二種の系統の中,より古形を保持しているものがロンドン写本,東京写本,プダク写本三本中の一つ,そして東洋文庫所蔵・河口慧海請来の蔵外文献に属する紺紙金泥写本(Recension A=ASPA)である.この他の北京,チョネ,ナルタン,デルゲ,ラサ版,そしてトクパレス写本,残りのプダク写本二本(Recension B=ASPB)はその内容に『現観荘厳論』(以下『現観』)からの影響がみられ,また現存ネパール系の梵語写本と近似している.本稿では『八千頌』において「大乗」が説示される箇所に関して,二系統のチベット語訳『八千頌』による比較,また注釈者の解釈を参照することで同箇所における経文の改変と,その経緯を明らかにすることを目的とし,このことは大乗経典編纂の一事例を提供することも視野に入れるものである.二系統間における「大乗」の説示の異同調査の結果を踏まえてHaribhadra(D3791;P5189),Ratnakarasanti(D3803;P5200),Abhayakaragupta(D3805;P5202)の注釈を参照すると,三者ともASPBに依拠し,また同箇所の解釈についてArya-Vimuktisena(D3787;P5185)の注釈を基本としている.またBhagavatyamnayanusarini(D3811;P5209)は経文改変とその意図について言及している.つまり,より新形のASPBには『現観』との結びつきを意図して経文が付加されていることを記している.
- 2011-03-25
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