音楽教育哲学から鑑賞教育への示唆(3)
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概要
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これまでの研究で、我が国の音楽科教育が美的音楽教育へ偏っており、その傾向は特に鑑賞教育において顕著であることがわかった。しかし、「自分中心」のプラクシス的音楽教育と「音楽中心」の美的音楽教育は対立するものではなく、順次性を持った関係であると筆者は考えている。そこで音楽科教育にプラクシス的思想を導入するために、本稿ではアウトリーチ活動に注目した。近年増加している音楽の分野でのアウトリーチ活動は、かつての「音楽鑑賞教育」とは異なり、参加体験の実施や小規模化などの特徴がみられる。アウトリーチが子どもたちの興味、関心を掘り起こし、その結果「楽しみ」に立脚した「学び」が音楽科教育において実現すれば、プラクシス的音楽教育の導入とさらには美的音楽教育への移行も叶うことになる。しかし、アウトリーチ活動を活用すればすぐにそれが実現できるわけではなく、音楽科教育への効果に関する実践研究をベースにして数々課題を克服していく必要がある。アウトリーチ活動の活発化は、1990年代に増加した公共ホールへの「ハコモノ行政」批判に端を発するが、より間近で音楽を感じることができるように配慮されたその内容から、学校を芸術発信の拠点とすることや芸術のあるまちづくりという大きな可能性をも見出すことができる。
- 名古屋市立大学の論文
- 2009-12-23