人格の同一性と代理意思決定
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概要
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事前の意思表示であるアドバンス・ディレクティヴは, 「拡張された自律」という道徳原理を軸とした, 患者の自己決定の「明確な証拠」である。よって、代理意思決定ではそれを採用することが患者の自律尊重になる。この見解は今、人々に広く認知されているものである。それに対して, そもそも自律は拡張されないと異議を唱えたのが, ブキャナンとブロックである。彼らにとって代理意思決定は, 意思能力がある患者の権利を拡張することによって, すでに事前に決定されたものとしてあるアドバンス・ディレクティヴを,代理人が採用するという、手続きの方法を意味するものではない。意思能力がない「他者」を, 意思能力があるわれわれがどのようにとらえ, その他者のためにどのような決定ができるのか、その問題に対するわれわれの道徳的判断を、繰り返し検討し続けるところにあるものなのである。本稿は, パーフィットの「人格の同一性」や「言語行為」を切り口に, アドバンス・ディレクティブと代理意思決定を考察した彼らの主張を概観し, そこで提示された代理意思決定を検討する。