消費者金融の経済的意義
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概要
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本論文の主要な目的は、(1)消費者金融(ないし、より広い意味では、消費者信用)が果たしている経済的機能とその意義を、主としてミクロ経済学の視点から分析・検討し、(2)さらに、消費者金融の機能をより有効に発揮していくためにどのようなことが必要かについて若干の考察を加えることである。マクロ経済的には、消費者金融は、「消費を促進ないし前倒しする手段」であると考えられる。最近のアメリカの実証研究では、消費者信用の消費水準に与えるプラスの効果が検証されている。ミクロ経済学には、消費者金融は、所得の所与の流列と分離した形で、最適な消費の時間的パターンを実現するという極めて重要な機能を担うものである。この消費者金融の重要な機能は、不確実な世界でも、(取引当事者間の情報量に差がない)対称情報の仮定の下では、アロウ=デブリュー証券を導入することで、最適な資源配分を実現することが可能であり、これは、消費者金融ではデフォルトリスクを加味した金利決定や、所得の予期せぬ減少に応じて返済額を減免するなどの複合的な契約を考えることに相当する。一方、取引当事者間の情報量に格差がある、非対称情報の世界では、周知のように、逆選択やモラルハザードといった、消費者金融取引を阻害する現象が生じる可能性がある。しかし、これらに対しても、いくつかの対抗手段を考えることができる。例えば、多様な契約形態を提示することで、借り手の自己選択によって、逆選択の発生を少なくしたり、また信用割当理論が示唆するように、借り手が望む額よりも低い貸出額に抑えることで、モラルハザードの発生を少なくすることが可能であう。以上の議論では、消費者は自己利益を最大化する合理的主体であるとの標準的な仮定に従っているが、最近の実験経済学の知見では、そうした標準的な仮定が必ずしも成立しているとはいえない。事実、筆者の行った主観的割引率を調べるアンケートの結果では、現在消費の過剰傾向を示唆する特徴が観察されている。こうした傾向は、標準的な経済学では説明困難である。こうした傾向や他の面での不十分な認知能力などについては、消費者に対する教育や啓発活動がひとつには重要になってくるであろう。公正で競争的な消費者金融市場の存在は、貸出金利の引き下げ圧力を生むとともに、多様な取引形態の開発のインセンティブを与えるという点で、消費者金融の機能を一層発揮する上で基本的な前提条件である。さらに、貸し手が借り手の借入れ状況を的確に知ることが、逆選択やモラルハザードの発生を抑える有効な手段となりうる。個人信用情報の整備や保護は、プライバシー保護の観点からも重要であるが、非対称情報の問題に対処する上でも、基本的に重要である。
- パーソナルファイナンス学会の論文
- 2001-11-30
著者
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