障害者文化論 : 障害者文化の概念整理とその若干の応用について
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概要
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聴覚障害者が用いる日本手話の言語性に基づき, 「ろう文化」の概念が提示されている。この「ろう文化宣言」を障害者の文化に関する言説としてみたとき,ここには障害者のアイデンティティに関する言説が内包されている。障害者のアイデンティティの獲得には,(1)障害を隠すこと,(2)価値のあるアイデンティティを獲得すること,(3)健常者の社会がもつ価値を否定すること,(4)社会のもつ価値の組み替え,という4通りの方法がある。聴覚障害者集団における日本手話を用いた「ろう文化」の概念は,健常者集団における文化に対し,4番目の価値の組み替えを提示していると考えることが適当である。また,「障害者文化」の概念は,障害者集団と健常者集団の関係性において,ラベリングの機能をもつ。このラベリングの機能は,健常者の価値の組み替えを通して,ノーマライゼイションの概念における「相互の役割認識」や「支え合う」といったことを補完するものでもある。障害者文化は,障害者自身にとっては価値の組み替えによるアイデンティティの獲得のためのものだが,社会全体にとっては障害者が健常者に対しその差異の承認を求めることそのものである。障害者文化をこのように考えるならば,ピア・カウンセリングは,障害者文化を当事者間で共有化するための装置として,また,障害者によって運営される自立生活センターや地域作業所(共同作業所)などは,障害者および障害者集団が自らの文化を発信する装置として位置づけることが可能となる。
- 一般社団法人日本社会福祉学会の論文
- 2001-08-31