教師と子どもの合意形成に関する一考察 : A. グラムシのヘゲモニー論を手がかりに
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概要
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本論文は,アントニオ・グラムシのヘゲモニー論とその再評価をめぐる研究動向を手がかりとして,教師と子どもの合意形成のあり方を問い直そうとするものである。これまでの教育実践において,ヘゲモニーは「主導権」と訳され,子どもたちの支持・同意を前提として教師が発揮するちからとしてとらえられてきた。それは,ヘゲモニー論を肯定的に,積極的に論じようとするものであるが,ヘゲモニー論が支配の文脈のなかで展開されている点を軽視していたのではないだろうか。グラムシにおいて,ヘゲモニーは,人々の集団的同意を意味すると同時に集団的同意をつくりだす働きを意味する。グラムシは支配の問題を,強制と,被支配者の自発的同意という二側面からとらえるのであるが,強制に対する同意こそグラムシにおけるヘゲモニーであり,それは支配の文脈のなかで用いられる概念なのである。このヘゲモニー概念から,現存する集団的同意の状態を分析するヘゲモニー論と,新たな集団的同意をつくりだそうとするヘゲモニー論が導かれる。これらふたつのヘゲモニー論によってはじめてヘゲモニーは動的なものとしてとらえられるのである。ヘゲモニーの成立過程と合意形成の過程を関連づけて考察することで,合意形成の際に生じるポリティクスが明らかになると同時に,合意形成を通して教師-子ども関係を変革していくことが可能となる。
- 日本教育方法学会の論文
- 2003-03-31