カラスアゲハとその近縁種間のアイソザイム遺伝子頻度より解析した分化程度
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概要
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カラスアゲハ(P. bianor complex)は,中国大陸・朝鮮・台湾・沖縄諸島・日本本土に広く分布し,そのはねの模様・色合いも各分布地で微妙に変化している.この傾向は特に,南西諸島のような海で隔たった隔離小集団では強いが,形態学的には現在7亜種に分類されることが多い.川副・若林(1975)では,このうち沖縄諸島産をP. okinawensisとし,一ノ瀬・堀内(1985)は,八重山諸島産のものを別種としている.しかし,これら亜種間でのお互いの交配実験も多数試みられてはいるが,F_2までの飼育が困難でもあり,種(species)レベルまでの分化が進んでいるのか,あるいはさらに多数の別種のレベルまで分化しているのか,実験的な確証は得られていない.本研究では,これらの関係の一端を調べるため,1986年にカラスアゲハの本州産,沖縄本島産,石垣島産の雄を各51,52,60匹採集した.腹部を解剖し,精巣および消化器官に含まれる酵素のうち,リンゴ酸脱水素酵素(Mdh),アルコール脱水素酵素(Adh),テトラゾリウム酸化酵素(Tox),酸性燐酸化酵素(Acph),α-エステル化酵素(Est-α),β-エステル化酵素(Est-β)の6遺伝子座につき,その対立遺伝子頻度を電気泳動法で調査した.同一の移動パターンおよび特異的移動パターンを持つものの割合より,NEI(1972)の式を用いて,互いの遺伝的距離を推定した,遺伝的距離は2集団間でのすべての同一移動度を持つアイソザイム遺伝子の頻度の相関の逆数として表される.本州産と沖縄本島産のものでの遺伝的距離は,0.896であり,本州産と石垣島産,沖縄本島産と石垣島産のそれは,0.737と1.268であった.これらの値は,対照区にとったカラスアゲハとミヤマカラスアゲハ(P.maackii)の1.009,および,ギフチョウ(L.japonica)とヒメギフチョウ(L.puziloi)の0.241と同程度のオーダーに分化していることを示している.これらの値は,NEIの総論(1975)の他の動植物で得られている種間の値;0.18-2.54の範囲内に入っている.同一種内の他方品種間では,0.01のオーダー,亜種間では,0.1のオーダー,属間では,1.10以上のオーダーからみても種のレベルに最も近い.また,AdhおよびAcphでは,3産地で共に共通の対立遺伝子は全く存在しておらず,野外では遺伝子の交流が無いことを示すとともに,固有の対立遺伝子に固定していることを示している.これらのことは,南西諸島のカラスアゲハは,遺伝的には別種としても良い程度に分化を起こしていることを示唆している.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1987-12-20
著者
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住吉 薫
Departments Of Biology And Applied Physiology Hyogo University Of Teacher Education
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山口 修
Departments Of Biology And Applied Physiology Hyogo University Of Teacher Education
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小南 裕彦
Departments of Biology and Applied Physiology, Hyogo University of Teacher Education
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小南 裕彦
Departments Of Biology And Applied Physiology Hyogo University Of Teacher Education
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