南九州におけるタテハモドキの個体数および分布の変動
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概要
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(1) 以前はわずかに土着していたか,まれに移住個体又はその子孫が発見される程度であったと思われるタテハモドキが, 1958〜1962年,九州南端部に多数発生している. (2) この地域では1958年から個体数が急増したが,その原因は1957年頃から水稲の早期栽培が始まり,食草スズメノトウガラシがふえたためと推察される.この食草は7月から発芽するので普通作の水田ではめったに大群落はつくらないが,早期栽培地域では第1期作を8月までに終ってそのまま放置する水田が多いので,ここにこの食草が大量に出現することになる. (3) 土着地は今のところイワダレソウのあるところだけと思われるが,確認されているのは佐多町大泊と田尻,推定されるのは志布志町夏井,枕崎市,日置郡などである. (4) 越冬成虫は春にイワダレソウに産卵し,それから生じたF_1またはF_2が7〜11月にかけてスズメノトウガラシのある水田地帯で2〜4回の発生をくり返しながら分布をひろげるものであろう.これらの地方以外でも越冬後の成虫が発見されるが,そのF_1は発生した記録がない. (5) 南九州で分布北限を規定しているのは低温でなく,春の食草の分布の有無であろう.また,毎年の分布拡大範囲はそう大きくないし,成虫の移動性もあまり大きいものではないらしい. (6) 今後,新食草が発見されるかもしれないし,イワダレソウのないところで越冬成虫が生きのびて夏の食草により次代を発生させる可能性が少し残されているが,本報でのべた経過がやはり主なものであろう.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1964-08-30