温度-サイズ則の適応的意義
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
温室効果ガスに起因する地球温暖化への懸念を背景として、欧米では外温生物の温度適応に関する研究集会が近年頻繁に開催されている。決定成長の生活史を伴う分類群を対象とした研究者の間では、低い温度環境で育った外温動物が長い発育期間を経て、より大きな体サイズで成熟するという反応基準の適応的意義が古くから議論の対象となってきた。この温度反応基準は、分類群の壁を越えて広く観察されることから「温度-サイズ則」と呼ばれている。温度-サイズ則が制約の産物であって、自然淘汰の産物ではないのだという可能性は、主に昆虫を対象とした実証研究によって繰り返し否定されてきた。その一方で、この普遍的な反応基準を進化的に支える適応的意義を説明する数多くの(相互に背反しない)仮説が提唱されている。この数年で温度-サイズ則の適応的意義を説明するための理論的基礎は整いつつあり、現在はそれらの妥当性を検証するための実証研究に対する需要が高まっている。しかしながら、多くの仮説は生活史進化の分野で理論研究の一翼を担ってきた最適性モデルに基づくものであり、数式を用いた表現に慣れていない者にとっては、その論理を直感的に理解することが容易でない。従って、本稿ではまず生活史形質の温度反応基準に関する過去の研究を幅広く紹介することで、この分野での基礎となる考え方を紹介する。次に、温度-サイズ則の適応的意義を説明するために提唱されている代表的な仮説をいくつか取り上げ、可能な限りわかりやすく解説する。最後に、この問題を解決するために今後取り組まれるべき課題を述べる。
- 2010-07-31
著者
関連論文
- 温度-サイズ則の適応的意義
- 海洋無脊椎動物の外骨格同位体比分析--生活史進化の理解に向けて (総特集 バイオミネラリゼーションと石灰化--遺伝子から地球環境まで) -- (巻き貝)
- 最適生活史モデル : 実証研究との協調によって可能となる理論的アプローチ (第5回生物数学の理論とその応用)
- 地理的変異の近接的機構としての表現型可塑性 : 外温動物の体サイズ・クライン(表現型の可塑性 : その適応的意義の探求)
- 特集にあたって(表現型の可塑性 : その適応的意義の探求)