『ナーマサンギーティ』の註釈に見られる本初仏の解釈について
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概要
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八世紀に成立したとされている仏教タントラ『ナーマサンギーティ』(Namasamgiti)は,「本初仏」(adibuddha)を含む八百に上る文殊智慧薩を称讃する様々な名号を説く.このタントラには異なった立場(瑜伽タントラ系・無上瑜伽タントラ系・Kalacakratantra系)から著された複数の註釈書があるが,本論ではVilasavajra,Advayavajra,Ravisrijnanaなどの学僧たちによる十二の註釈を用いて,それらにおいて[本初仏]という言葉がどのように解釈されているかを考察した.そして以下のような点が明らかになった.先ず,諸註釈の中でとくに瑜伽・無上瑜伽タントラ系の文献では「本初仏」を法身として解釈し,まさに最初から悟ったものであると理解している.そしてVilasavajra(Toh2533;Ota3356)やCandrabhadrakirti(Toh2535;Ota3358)の註釈で示すようにその仏はビルシャナ仏をはじめとする五仏の五智を自性とするものであり,さらに観想の対象ともしている.一方,Narendrakirti(Toh1397;Ota2113)やPundarika(Toh1398;Ota2114)のKalacakratantra系の註釈においては「本初仏」は自らが存在するもの(svayambhu)で,始めも終わりもない者(anadinidhana,無始無終)として明確に解釈している.svayambhuとanadinidhanaはいずれも『ナーマサンギーティ』において文殊智慧薩を称賛する名号として登場し,後の文献では「本初仏」の同義語として広く扱われるようになっている.つまり,これらの註釈から判断すると,『ナーマサンギーティ』における「本初仏」は「一切仏を生み出すもの(NS-60b)」,「一切仏の自性を持するもの(NS-141d)」のような名号を持つ文殊の一つの名号以上の意味は持たされていないと考えられる.
- 2010-03-25
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