トランスナショナルな社会空間における差異と共同性 : フィリピン人ミドルクラス・アイデンティティに関する考察
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概要
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今日のフィリピンにおける看護師資格は、ミドルクラスの海外移住のための便宜的な「第二のパスポート」としての側面を合わせ持ち、フィリピンからの看護師たちの海外移住は、彼らのトランスナショナルな空間への独自な適応過程を示しているといえる。このようなトランスナショナルな社会空間は、ミドルクラスに新たな財、知識、ステータスを獲得する機会を提供し、他者と自己との差異化・卓越化を試みる実践を促す。しかしながらその一方で、ミドルクラスは国内諸階層の人々とのつながりを断ち切ることも出来ないというアンビバレンスを抱え込む。社会階層と公共圏に関する文化論的研究においては、階層的アイデンティティは固定的・静的なものではなく、つねに争われるべき流動的なものとして、異階層間アイデンティティの拮抗とせめぎあいが注目されてきた。しかしながら、本論で明らかになるミドルクラス・アイデンティティの両義性に注目するとき、むしろ社会空間における差異と断絶の一方で、「落ちることへの恐怖」からミドルクラスが求めざるを得ない他者との接合と共同性の可能性を指摘することができる。本論では、社会的連帯を形成する中間集団として重要なアクターであるミドルクラスのアイデンティティが、どのように社会的紐帯の断絶と接合の両極面に動員されるのかを検討する。さらに、フィリピン人ミドルクラス・プロフェッショナルの実践は、トランスナショナルな社会空間における自己の「市場価値(marketability)」と「就労可能性(employability)」を高めるための企図に従事するアントレプレナーとしての主体の形成を示唆している。本論はこのようなミドルクラス・アイデンティティが示唆する意味を、ネオリベラリズムの権力作用と統治性に関する今日の人類学的議論の文脈に位置づけることで考察する。
- 2009-12-31
著者
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- 永田貴聖著, 『トランスナショナル・フィリピン人の民族誌』, 京都, ナカニシヤ出版, 2011年, 215頁+viii, 3,500円(+税)