ネオリベラルな現在(いま)において人類学のできること(<特集>ネオリベラリズムの時代と人類学的営為)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿の目的は、インドネシア・フローレス島の生活世界を具体的に伝えることにより、現在のグローバル市場経済を方向付けているネオリベラリズムとその批判が陥りがちな予見を指摘し、代替的(オルタナティヴ)な視座を示唆することである。この30年間、グローバル・ヘゲモニーの中心諸国をはじめ多くの場所で、ネオリベラルな政策が様々な困難を生んでいるが、フローレスの二つの社会には、それぞれ固有の変容と持続がみられる。両社会とも同じようにネオリベラルなグローバル・ヘゲモニーの抑圧的な状況下にあるにもかかわらず、一つの社会では、マレーシアへの非合法出稼ぎによってもたらされる現金の多くが、最大関心事である贈与交換と宴につぎ込まれ、もう一つの社会では、地方分権化によって可能になった地方政府財源の流用により、儀礼をめぐる「伝統文化」の強化が推進されている。これらの変容は、私たちの社会における変容とも大きく異なる。本稿で提示されたフローレスの生活世界は、記号媒介的である私たちの社会にとって後背地的である。あらゆる民族誌的語りは部分的であり、後背地的領域の問いかけに応答してゆくことによって可能になる。社会科学に依拠して展開されるネオリベラリズムとその批判に対して、人類学はさまざまな水準の後背地的領域からの問いかけを媒介して行くことにより、示唆を与える。
- 2009-09-30