ワーク・ライフ・バランスの労働法上の観点:配転・転勤の法理の変容
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概要
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現在、「ワーク・ライフ・バランス」という概念が、社会や企業において頻繁に取り上げられている。このことは、内閣府が平成19年12月に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」を策定したことに起因している。 これまでも労働法においては、労働者の配置転換や転勤等といった個別の論点において、仕事と生活の調和に関し、様々な判例が言い渡され、一定の解釈を行なってきた。配置転換や転勤に関する問題は、労働者の私生活に大きな影響を与えるものである。 しかしながら、内閣府の策定した上記憲章および行動指針においては、労働者の配置転換や転勤に関する問題がほとんど取り上げられていない状況にある。 ワーク・ライフ・バランスとは、仕事に生きるのか、私生活を大切に過ごすのかという二者択一的な生き方ではなく、仕事と私生活の調和が実現した社会である。 本稿では、配転・転勤に関する判例の事実および判旨を考察し、ワーク・ライフ・バランス概念が導入される前の判断要素を検討し、判例法理である「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」が、(1)育児介護休業法26条の規定する子の養育又は家族の介護の状況への配慮義務や、(2)労働契約法3条3項の規定する「仕事と生活の調和」が、(3)ワーク・ライフ・バランス概念の導入によってどのように変容したかを考察する。 考察の結果、今後は「仕事と生活の調和」という判断基準によって、これまで認められてきた使用者の配転命令権が一部否定される可能性があると考えられ、ワーク・ライフ・バランス概念を雇用の分野、とくに配転命令権を制約するために本格的に導入するにあたっては、労働基準法等の改正をすることが必要と考えられる。
- 2009-09-15
著者
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