遺族年金の受給権についての一考察 : 生計維持関係および重婚的内縁配偶者を中心に
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
厚生年金保険法は,労働者その他の労務提供者が私的社会生活を営む過程において死亡などの社会的事故に遭遇することに関連して,一定の場合「遺族厚生年金」を支給する。「遺族厚生年金」は,死亡した被保険者の収入によって生活をしていた者にとって,重要な役割をはたすものである。この遺族厚生年金を受給することができる「遺族」は,被保険者又は被保険者であった者の配偶者等であって,被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時,その者によって「生計を維持していた」もの(生計維持関係)である。そして,遺族厚生年金の受給権者となる「配偶者」の中には「戸籍の届出に係る配偶者」のみならず「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」(内縁配偶者)も含まれる。そこで,遺族厚生年金の受給に伴って問題となるのが, (1)生計維持関係の問題,および, (2)法律上の配偶者に加えて内縁配偶者がいるという「重婚的内縁配偶者」の問題である。このことは,遺族厚生年金の受給においてしばしば実際に問題になり最高裁判所の判決を含めて種々の判決が言い渡されている。判例の判断要素を検討すると, (1)生計維持関係の判断基準については,厚生年金保険法施行令3条の10により,被保険者の死亡当時その者によって生計を維持していた配偶者とし,かつ,厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者としている。この場合に,被保険者の経営する会社から取締役および監査役として取得する報酬は,たとえ生活費の実態を有する部分が存在したとしても全額が収入と判断される。また, (2)重婚的内縁配偶者が遺族厚生年金の受給権者となる場合の判断基準は,法律婚をしている夫婦が(1)離婚の合意に基づき共同生活を廃止しているとき, (2)一方の悪意の遺棄によっておおむね内縁関係が10年以上継続しているときである。これまでの判例においては,いずれか一方の配偶者に遺族年金が支給されるという判断がなされてきたが,カナダのように保険料を納めていた同居期間に応じて分割支給するという方法も考えられる。さらに,近親的内縁者への支給は,原則禁止されるが特段の事情(農業後継者の確保等)によって認められるとされている。
著者
関連論文
- 介護保険料に関する一考察 : 公費方式導入の可能性
- ワーク・ライフ・バランスの労働法上の観点:配転・転勤の法理の変容
- 学生無年金障害者訴訟に関する一考察
- 企業年金の減額に関する一考察
- 遺族年金の受給権についての一考察 : 生計維持関係および重婚的内縁配偶者を中心に
- 労働者へのセクシュアル・ハラスメントに関する紛争解決手続き--新たな位置づけの検討 カナダ法とイギリス法を中心として
- 雇用上の差別における文書提出命令について--カナダ法からの示唆を含めて(下)
- 雇用上の差別における文書提出命令について--カナダ法からの示唆を含めて(上)
- 判例研究 大学内の「権利能力なき社団」の解散に伴う解雇の適法性判断基準--岡山大学学友会(嘱託員契約解除)事件 最高裁平成16.4.20第三小法廷判決(平成15年(受)第910号、岡山大学学友会X,地位確認等請求事件)民集第58巻4号841頁,判時1858号74頁,判タ1150号119頁,労判873号13頁
- 労働者に対するセクシュアル・ハラスメントについての一考察(下)カナダ法を中心に
- 労働者に対するセクシュアル・ハラスメントについての一考察(上)--カナダ法を中心に
- 職場における受動喫煙に関する一考察:カナダ法との比較
- 心理的負荷による精神障害の認定基準の検討:カナダ法の基準を含めて