論元曲・関漢卿作品中的成語
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概要
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楚辞,漢賦,唐詩,宋詞,元曲と言われるように,中国歴代文学の特徴を示す言葉がある。最後の元曲とは,元の時代つまり十三世紀の前半に興り,はじめ大都(北京)を中心とする北方で盛んに行なわれたが,元朝の版図の拡大とともに江南にも北の劇(これを北曲または雑劇と呼ぶ)が伝わると,北とは異なる劇(これを南曲と呼ぶ)を生んだが,それらをも含めた呼び名である。もちろん,元一代を風靡した元曲は,突然隆盛になったのではなく,金代の庶民文芸である諸宮調や院本雑劇を土台としており,またその源は宋代にまでさかのぼるという。故に,宋金の雑劇院本が,元曲の材料になったものもある。元曲は曲,科,白の三要素から成立っている。その中でも,曲が中心であり,通例四折(四幕)を以て一劇を完成するが,四折だけでは表現に不充分なときには,別に楔子を設ける。歌い手は正末または正旦に限るのを通例とする戯曲である。元の雑劇作家中,殊に名高い人は,関漢卿,馬致遠,白撲,鄭光祖の四家で,通例「関馬鄭白」と連称される。中でも,関漢卿は元曲の最も代表的な作家である。毎年世界的な文化人を選定してその功績を顕彰してきた中国では,1958年を関漢卿の戯曲創作七百年にあたるとして,かれの作品集の校訂,註釈出版,その人と作品に関する研究評論が発表された。また,作品の数においても群を抜き,外題の判明しているものは,実に六十篇を超えている。しかし,そのうち伝存するものは次の十八篇のみである。竇娥冤 魯齋郎 蝴蝶夢 中秋切鱠 救風塵 金線池 謝天香 玉鏡台 單鞭奪槊 單刀會 四春園 五侯宴 哭存孝 斐度〓帶 陳母教子 拜月亭 調風月 西蜀夢 本稿はこの十八曲を資料として使用,テキストは《元刊雑劇三十種》,《古名家雑劇》,《雑劇選》,《古雑劇》,《脉望舘抄校本古今雑劇》,《古今名劇合選》,《元曲選》を底本として校訂した《関漢卿戯劇集》を使用した。ここ数年来,中国では元曲のさまざまな研究が行なわれてきた。文学の資料として,また社会風俗の資料として,あるいは音韻史の資料として,また,語学の面から見ても,元代の北方官話がふんだんに使われ,今日の中国語の形成を考える場合にも,必要不可欠の言語資料である。ここ数年来,中国で元曲関係の研究書とともに辞典が相次いで出版されている。《戯曲詞語匯釈》(陸澹安編著・上海古籍出版社・81年),《元曲釈詞(一)・(二)》(顧学頡・王学奇著・中国社会科学出版社・83年),《宋元語言詞典》(龍潜庵編著・上海辞書出版社・85年),《詩詞典語辞例釈(増訂本)》(王〓著・中華書局・86年),《詩詞典詞語雑釈》(林昭徳著・四川人民出版社・86年)等々。元曲の用語は極めて難解である。これまでどうにも理解に苦しんできた言葉が一つ一つ検証され解明されていくのは実に喜ばしいことである。しかし,元曲に使用される用語の範囲はきわめて広く,経部史部子部集部はもとより,朱子語類,元典章,通制條格,敦煌變文に至る。また少数ではあるが,蒙古語や女真語よりのLoan Words(借用語)も含まれている。(詳見「元雑劇・散曲にみられる胡語考」(寺村政男・中国文学研究・第十三期1987年12月・早稲田大学中国文学会)。本稿は難解で定評の関漢卿の現存する十八篇の作品を資料として,その作品の中から,成語を抽出し,それぞれの歴史的な使用例の出典を取り上げて,当代の正しい用法概念を明らかにし,作品の解明を探って見ようとするものである。なお,曲学の先輩呉曉鈴(試論関漢卿的語言・中國語文・1958年)と張敬(元明雑劇描寫技術的幾個特點・大陸雑誌・第十巻第十期)両氏の論文がこの点に余り触れていないので,僭越ながらその遺を補充するとともに,両氏にご教示頂くため,また,論文の性質上中文を使用した。※本稿は正字(旧体字)使用
- 流通経済大学の論文