極東のスズメ目留鳥における緯度方向の集団構造に最終二氷期と鮮新世後期が与えた影響(西太平洋における島弧の自然史科学的総合研究 第1期:台湾およびフィリピン)
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概要
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過去の気候サイクルは多くの生物種の個体数や分布の変動の原因となってきた.現在の種の遺伝的な集団構造からその影響を調べることができる.このような研究は,鳥類では北アメリカやユーラシア大陸での東西方向の集団分化についてよくおこなわれてきたが,南北方向の分化についてはまだほとんど研究されていない.そこで,8種の定住性鳥類についてミトコンドリアDNAチトクロームb領域の塩基配列を調べ,本州と台湾の集団間の分岐年代を評価することで,極東域における南北の集団分化について過去の気候サイクルの影響を調査した.その結果,両集団の分岐年代は2つの期間に集中していることがわかった.8種中4種は遺伝的分化が浅く,9万年前から17万年前に分岐したと評価され,残り4種は遺伝的分化が深く,240万年前から310万年前に分岐したと評価された.前者の分岐年代は更新世後期にあたる最終氷期からその前の氷期,すなわち1万年前から20万年前までと一致し,後者は鮮新世後期と一致した.このことから,1)日本と台湾に分布する留鳥類は,形態的に区別できない種においてさえ,少なくとも現在は(おそらくは完新世全体を通して)実質的な遺伝子流動が両地域間で起こっていないこと,および2)極東域における留鳥の南北の集団構造は2つの時期,すなわち最終二氷期と鮮新世後期とに強く影響を受けたことが示唆された.他方,前期更新世の間に蓄積されたであろう遺伝的シグナルはすべて最終二氷期の間に消失していた.これは前期更新世の影響が最終二氷期と比べて弱かったことを意味する.この結果は,予測された最終二氷期の重要性が大陸の東西での分化の研究では否定されてきたことと対照的である.また,極東における鳥類の亜種グループは北アメリカの亜種グループと比べて分岐の時期がより古く,北アメリカの姉妹種間の分岐と比べてさえも少し古いことが示唆された.極東での鳥類の形態進化の速度が北アメリカと比べて遅い可能性が考えられる.
著者
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西海 功
Department of Zoology, National Science Museum, Tokyo
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西海 功
Department Of Zoology National Science Museum
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Yao Chang-te
Taiwan Endemic Species Research Institute
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齋藤 大地
Department of Zoology, National Science Museum, Tokyo
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Lin Ruey-Shing
Taiwan Endemic Species Research Institute
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西海 功
Department Of Zoology National Science Museum Tokyo
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齋藤 大地
Department Of Zoology National Science Museum Tokyo
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