25. フラクタル次元を用いた人間行動動線の定量的分析
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概要
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避難時の状況判断や迷いなどは,動線の形状にある程度反映されているものと考えられる.たとえば,動線が直線に近い単純な形状であれば,ほとんど迷わずに脱出したものと考えられる.反対に複雑な動線形状であれば,脱出口に到達するまでにかなり迷っていたものと考えられる.しかし,従来は形状の複雑さを定量的に表す適切な指標がなかったため,人間行動形態の分析には,観察者の主観に基づいて動線形状を定性的にパターン分類する手法が用いられてきた.主観に基づく定性的分類は,複雑な図形情報を包括的にとらえられる利点がある.しかし,分類を行う人の偏見や独断に影響される恐れがあるほか,定型的な処理や複数の調査結果の比較を行うのが困難であるなどの欠点がある.本論文は,緊急時の人間行動形態を定量化するための指標として動線のフラクタル次元を用いることを提案するとともに,筆者らの行った被験者実験の結果及び過去の災害事例を例題として,人間行動の指標として動線のフラクタル次元の有効性を検討したものである.被験者実験時に得られた行動動線のフラクタル次元を求め比較したところ,フラクタル次元が人間行動の複雑さを定量的に表しており,筆者らの主観的分類ともよく対応していることがわかった.また,被験者実験結果および千日デパートビル火災時の避難行動について,歩行距離,行動範囲,脱出時間などの既往の研究で用いられている代表的な人間行動の特性指標とフラクタル次元の関係について検討した.従来用いられてきた指標のみでは人間行動の特徴を充分に定量化できていないことが明らかになった. 緊急時の人間行動を定量化するための指標として、動線のフラクタル次元を用いることを提案し、迷路を用いた被験者実験の結果と、過去の火災事例に適用して有用性を検討した。その結果、フラクタル次元が、脱出時間、歩行距離、行動範囲などで評価できない、人間行動の複雑さの度合いを定量的に表していることがわかった。