霊山の綱引きについて(研究課題:日・韓比較民俗研究,I 共同研究)
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概要
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韓半島の南部には予祝儀礼として綱引きをおこなう村が多い。年の初めに,村の人々は大量のワラを集め,力を合わせて大きな綱を作って,綱を引き合ってその年の作物の吉凶を占うのである。この儀礼がいつから始まったのか,現在のところ記録を見出すことはできない。綱引きは韓半島のみならず,世界の各地でおこなわれている。運動会におこなう綱引きがそのいい例であるが,韓半島の場合は古代から儀礼としておこなってきたところに特色がある。綱の材料はワラであり,ワラは稲作を象徴するものである。この地方の綱引きに使われる綱は直径1m,長さ130mもある大きなものが少なくない。それを作るための技術や労力,儀礼のためのさまざまな手続きが必要である。単なる遊びではなく,信仰を共にする人々の熱い思いとエネルギーが結集され,伝承されてきた儀礼である。韓半島東南部(慶尚道)は嶺南地方から洛東江にかけて平野が広がり,稲作が盛んにおこなわれている地方である。霊山における綱の制作方法は,同じ韓半島西南部(全羅道)に位置する金堤の月村面,井邑の精良里のものとよく似ている。両地方は距離にして150kmあまり離れている。さらに沖縄県糸満地方の綱引きの綱の作り方とも共通するところがある。これが伝播によるものか,それぞれの地方で個別に発生したものであるのか,現状では結論を出すことはできないが,文化の発生,伝播,定着を考える上で貴重な資料である。霊山の綱引きでさらに興味深いことは,規模がたいへん大きいこと,また嶺南地方は稲作が盛んであるにもかかわらず,綱引きが行われているのは霊山だけであり,その周辺の地方では綱引きの報告がないことである。さらに霊山の綱引きは軍事的な色彩が非常に強いことがもう一つの特色ある。綱引きに先立って,その年に村の中から大将,中将,少将の3人が選ばれ,綱引きのすべての儀礼の指揮をする。大将,中将,少将の3人は,階級に準じた伝統的な衣装(軍服)を身につけ,刀を差し,馬に乗って綱引きの指揮をしたという。これに対して,先に記した金堤地方の綱引きは,軍事的要素を多少含んでいるものの,農耕儀礼の色彩が強い儀礼である。このような点に注目しながら,霊山の綱引きを報告する。
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