新出『安般守意経』の原典があるのか
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概要
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1999年に大阪の金剛寺で発見された『安般守意経』,『仏説十二門経』『仏説解十二門経』は安世高をはじめ初期漢訳仏典の解明に大変重要な役割をなしている.とりわけ,金剛寺本の『安般守意経』は『出三蔵記集』に記載されている『安般守意経』と同じ物の可能性が大変高いということで,すでに学者の間で論証されている.また,新出『安般守意経』は『仏説大安般守意経』及び『修行道地経』の「数息品」と密接な関係があることも明らかになっている.例えば,他の経典に見られない八正道用語中の「直口,直身,直意」は上述の三つの経典にともに見られる.しかし,新出『安般守意経』自体は原典そのものからの漢訳か,あるいは中国で新たに編集されたお経かは未だ明確になっていないようである.本稿は新出『安般守意経』の構造から,とりわけその特有の用語からその成立の問題点を明らかにしたい.新出『安般守意経』中の「欲愛不復愛・意解得脱・癡解・從解慧得脱」(金剛寺一切経の基礎的研究と新出仏典の研究p.192,226-227行)の文は『陰持入經』の「貧愛欲不復貧念・意得解脱・癡巳解・令從慧得解脱・」(T603,p.176,a29-b1)からの引用と思われる.上述した『陰持入經』の漢訳のパーリ文ragaviragam cetovimuttim avijjaviragan ca pannavimuttimもPetakopadesa(p.123,line15-16.,Pali Text Society,1982)中にみられる.また,新出『安般守意経』文中の「日出作四事」(同上p.192,221-224行)の喩えも『陰持入經』のその文章(T603,p.179,b1-b25)とほぼ一致している.それらのことから,新出『安般守意経』は安世高によって「数息品」をもとにして『陰持入經』の文を加え新たに編集されたものという可能性が高いと指摘したい.
- 2008-03-25
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