ギフチョウの飛翔行動(1)

概要

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2002年4月1日から26日までのべ14日間,広島市絵下山山塊の無名峰(568.8m)において,ここに飛来した全てのギフチョウ成虫29個体(27雄2雌)をマーキングし,雄個体の山頂への出現およびその飛跡を時間を追って地図上に記入し飛翔トラックを解析し,山頂集合性,日周変動,エイジング変動を記録した.ギフチョウの雄は約2週間の寿命を持ち,山頂固執性が実証されると共に,山頂固執性が顕著に判別できる個体とあまり判別できない個体の存在が示唆された.行動範囲は1日のうちでは午前から午後にかけて,また若年期より老年期ほど広くなる傾向が認められた.飛跡追跡により,ギフチョウの飛翔ルートは個体ごとにまた個体間でも,ある程度整合性の高い共通の飛翔ルートを持つことが示唆された.また,一定の巡回飛翔(round-patrolling)を行ってもとの山頂に戻ってくる性質があること,また特定の占有位置確保(perching)の上,あたかも"スクランブル"するかのように一定の時間間隔で一定の空間を,数秒間の円形トラックの哨戒的飛翔(repeated circular flight)する場合があることが認められた.2頭以上の雄個体が遭遇すると,らせん飛翔(spiraling flight)を行う.これにより複数の雄個体の集積を避け,山頂部の広い範囲を雄の数個体がspacing-outしつつカバーしあって末交尾雌の飛来を持つ体制をとっていると考えられた.遭遇個体が未交尾雌の場合,ここで交尾が成立する.以上の飛翔行動は,個体の散逸を防止しつつ,同時にメタ個体群内部に未交尾メスを残さない優れた行動戦略と解釈された.マーク個体のうちの1個体は,約340m離れた峰と峰の間を約4時間を要して往復した.少なくとも直線距離で680m以上の飛翔行動を4時間以内に行って,もとのピーク(地点)に戻ってきたことになる.すなわち,ギフチョウは周辺のいくつかの峰を巡回する場合があると推測された.これらの行動は,先述の巡回飛翔の拡大という観点から考察された.なお,近年,この周辺地域のギフチョウの衰亡が顕著であり当地の個体群はすでに相当度に孤立している証拠がある.これに加えて,この調査点の山頂部は,2004年6月,デジタルテレビ塔およびテレビ局舎建設に伴って完全に破壊された.筆者らの一人,渡辺は,広島のテレビ局5社,広島市,施工業者からなる「絵下山公園デジタルテレビ塔建設事業にかかる環境の保全に関する協議会」の会長として,広島市および工事関係者の協力の下に公園全域のギフ千ョウ生息環境の保全および生息個体数の増幅とその保持を目指した最善の努力を行っている.また同時にこの山塊全域の調査を続行している.充分に個体群の保持が可能な状況が現出するまで,当分の間,採集者を絵下山公園内におけるギフチョウと食草の採取を控えるよう強く期待する.
日本鱗翅学会の論文
2006-06-30

ギフチョウの飛翔行動(1)

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