19世紀英国における女性とミッション : 海外宣教師Charlotte Tuckerの場合
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概要
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19世紀の英国において福音主義は大きな影響力を持っていた。良きクリスチャンであろうとした女性たちは、この福音主義の影響のもと、自分自身のことよりも周囲の人々の要求を優先させるよう教え込まれた。周囲の人々といえば直近には家族ということになろうが、拡大すれば同じ社会に住う人々をも指し、この時代とくに女性による慈善活動が盛んであったのはこのような利他主義が女性の間に浸透していたからと考えられる。しかしながら、たとえ慈善活動であろうと家庭の外で社会的な活動に関わるということは、当時の社会を支えていたdomestic ideologyに抵触する。社会における良きクリスチャンとしての自らの使命(ミッション)を真剣にとらえた女性たちが家族との葛藤を経験するというのはよく見られたことである。本稿ではその一例としてCharlotte Maria Tucker (1821-1893)を取り上げる。タッカーはまず、A.L.O.E (A Lady of England)の筆名で子どものための教訓話の作者として世に知られるようになる。生涯独身であったタッカーは、両親の死後、54歳で海外宣教師となってインドへ渡り、残りの生涯をそこでの宣教活動に捧げた。一見極めて例外的な人生を生きたように思われるが、使命感に駆られて家庭の外に活動の場を広げようとした当時の中流階級の女性の多くが直面した苦難を彼女も経験しており、19世紀英国における宗教的使命感と女性をめぐる状況の一面を端的に示す好例ではないかと考えられる。タッカーについてはAgnes Giberneによるかなり詳細な伝記A Lady of England: The Life and Letters of Charlotte Maria Tucker(1895)^1がある。また作家として、あるいは宣教師としての彼女に言及した資料も数点あり、これらをもとに彼女の人生におけるミッションをめぐる葛藤とその克服を検証する。その上で、彼女の果たしたミッションが社会的、歴史的に実はどのような意味を持っていたのかという点にまで考察を広げたい。
著者
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